
ベックリン「戯れる人魚たち」
同じ「人魚」でも、ウォーターハウスの作品とは大違い。こちらは絶対にお近づきになりたくない人魚たちです。いたずらされてしまいそう・・・。アルノルト・ベックリンの1886年作、「戯れる人魚たち」です。逆巻く大波のなか、奇妙な笑顔で戯れる人魚たち。空は薄暗く、海は荒々しく、ただでさえ普通ではない海景。左下には赤ん坊の人魚がいたり、右下の男にいたずらされているのか、下方中央にはえげつないくらいの笑みを浮かべる...

ウォーターハウス「人魚」
ウォーターハウスの作品のなかで、僕が一番好きなのが「人魚」です。うーむ、美しい。これぞウォーターハウス。明治の文豪もこの絵を見て虜になったようで夏目漱石の「三四郎」には、「人魚」と思われる描写が登場します。 絵はマーメイドの図である。 裸体の女の腰から下が魚になって、 魚の胴がぐるりと腰を回って、 向こう側に尾だけ出ている。 女は長い髪を櫛(くし)ですきながら、 すき余ったのを手に受けながら、 こ...

ウォーターハウス「ヒュラスとニンフたち」
美しい7人のニンフたち。思わず心を惹き付けられてしまいますが・・・いけないいけない、彼女たちの強烈な魔力に絡めとられたが最後、哀れ男は水底に引きずり込まれてしまうのです。ウォーターハウス、1896年の大作「ヒュラスとニンフたち」。画面左でニンフに腕をつかまれている男がヒュラスです。彼は血のつながりはないもののヘラクレスが我が子として育て、しかもヘラクレスの恋人でもあったという美少年。旅の途中で清水を求...

ウォーターハウス「オフィーリア」
前々回に紹介した、ウォーターハウスの「シャロットの姫」。睡蓮の浮かぶ濁った水面、生い茂る葦、そして死を目前にしたうら若き乙女。ウォーターハウスは同様のシチュエーションで、まったく別の物語を題材にした作品を1894年に発表しています。それが「オフィーリア」です。Ophelia(1894)John William Waterhouse柳の倒木に腰掛け、両腕を持ち上げて髪を整えるような仕草を見せるオフィーリア。彼女はシェークスピアの戯曲「ハ...

伊藤若冲「象と鯨図屏風」
千葉市美術館の「伊藤若冲 アナザーワールド」を見てきました。期間が明日までなんで、もう大慌てで。ホントはもっと早くに見に行きたかったんですが、あえて後回しにしてたのには訳があるのです。それは6月14日から展示される目玉があるから。寛政7年(1795年)作の「象と鯨図屏風」です。陸と海それぞれの巨大生物を白と黒という対比でもって大迫力で描いた水墨画。右隻には波打ち際でうずくまる白い象。左隻には力強く潮を吹く...

ウォーターハウス「シャロットの姫」(1888年)
前回に引き続き、ウォーターハウスです。1888年発表の「シャロットの姫」。The Lady of Shalott(1888)John William Waterhouse1870年ごろから活動を始めたウォーターハウスは、イギリス・ヴィクトリア朝時代の画家のなかでもトップクラスの人気を誇ります。また、1848年に同じくイギリスで結成され、象徴主義の先駆とされるラファエル前派の遺産を受け継ぐ画家と位置づけられています。「シャロットの姫」はラファエル前派が「不...

ウォーターハウス「魔法円」
ウォーターハウスの画集を買ってしまいました。給料日前なのに我慢できず・・・。でも大満足。めくるめく官能美。これぞ芸術といわんばかりの、匂い立つような美しさ。ということで、しばらくウォーターハウスおよびラファエル前派の作品を紹介していきたいと思います。Magic Circle(1886)John William Waterhouse1886年発表の「魔法円」。オカルト趣味の萌芽という意味でも重要な作品で、国に買い上げられ、批評家の注目を集め...

ルソー「眠れるジプシー女」
沈み行く太陽と、孤高のライオンを描いたジャン=レオン・ジェロームの「二つの威厳」。この作品に触発され、アンリ・ルソーが描いたのが1897年発表の代表作「眠れるジプシー女」です。そこで描かれたのは太陽ではなく月、そしてライオンはジプシー女の匂いををかぐようなそぶりを見せています。La Bohémienne endormie(1897)Henri Rousseauルソーが画家を志した時期は、ちょうど印象派が台頭し始めたころ。しかしルソーは...

ジェローム「二つの威厳」
ここ日本でも人気の高い印象派ですが、19世紀後半にフランスで産声を上げた当時は前衛的な作風ゆえ、異論を唱える画家も多かったとか。その1人が、当ブログでも何度か紹介しているジャン=レオン・ジェロームです。沈み行く太陽、そして岩壁にたたずむ一頭のライオン。周囲に草木は見当たらず、果てしない荒野がライオンの孤独を際立たせます。この作品は、ジェロームの「二つの威厳」。万物を明るく照らす太陽と、百獣の王ライオ...

アンリ・ルソー「戦争」
前回紹介したレオナルド・ダ・ヴィンチの「アンギアリの戦い」は、戦争を正当化しようとする注文主の意向に対して戦争の愚かさを狂気という形で描いた、未完の傑作でした。その結果、歴史の狭間に封印されてしまったわけですが・・・。絵画を通して戦争の悲惨さを訴えた画家は、ダ・ヴィンチ以外にも数え上げたらきりがありません。なかには戦争の狂気を、まったく異なる視点から描いた画家がいます。それがアンリ・ルソー。作品の...

ダ・ヴィンチ「アンギアリの戦い」(追記あり)
※当記事は2010年6月に書いたものですが、その後の調査で進展があったそうでその旨を最後にまとめてあります。結論からいうと、「見つからなかった」。記事のご指摘および情報を提供してくださった方に感謝申し上げます。イタリア・フィレンツェのベッキオ宮殿。500人大広間に現存する、ヴァザーリのフレスコ画「ピサ攻略」。1975年、その壁画の片隅に小さな書き込みが見つかりました。「CERCA TROVA(探せ、さらば見つからん)」そ...

クラナッハ「サロメ」
「さあ、召し上がれ」そんなささやき声が聞こえてきそうです。ルネサンス期、ドイツの画家ルーカス・クラナッハの「サロメ」。う~む恐ろしい。SalomeLucas Cranach der Ältere昨日紹介したギュスターヴ・モローの一連の作品に比べると、時代の違いのせいか明らかにこちらは作り物めいた印象。でも、そのせいでかえってすごみが増しているというか。このサロメの表情といったらもう・・・。女性恐怖症になりそうなインパクト...

モロー「オルフェウス」
昨日に続き、オルフェウス神話より。バッカスの巫女に八つ裂きにされたオルフェウス。彼の頭と竪琴は川に投げ込まれてしまいます。あわれ、川を流されて行くオルフェウス。それを見つけ、手を差し伸べたのがトラキアの娘でした。OrpheusGustave Moreauフランス象徴主義の画家、ギュスターヴ・モローの「オルフェウス」は、トラキアの娘がオルフェウスの頭部と竪琴を拾い上げた瞬間を描いた作品。オルセー美術館展で見たという人も...

アルトドルファー「アレクサンダー大王の戦い」
「ヒストリエ」という漫画にはまってます。「寄生獣」の作者、岩明均の作品で、主人公はアレクサンダー大王に仕えた書記官、エウメネス。蛮族という出自を持ち、文武に秀でた彼は数奇な運命に翻弄されながら成長し、大国マケドニアの重要人物としてのし上がっていきます。で、何が面白いかというと、主人公がとにかく冷静で淡々としていて、盤上のチェスを動かすように難局を乗り切っていくわけです。要は出世物語なんですけど、頭...

ビュラン「無垢な結婚」
昨日は会社の同僚の結婚式に行ってきました。途中迷子になったり会場を間違えたりで大変でしたが「結婚っていいなぁ」としみじみ思える、すばらしい式でした。僕は新郎側の同僚なんですが、新婦の手紙でもう感極まってしまいまして。まわりがびっくりするくらい泣いてしまいました・・・。またやってしまった。ということで、新郎新婦の2人が幸せな家庭を築くことを願って、ある1枚の絵画を紹介したいと思います。ジャン=ウジェ...

ジェローム「アレオパゴス会議でのフリュネー」
古代ローマの奴隷市場では、女性たちが売買されていました。彼女たちを待ち受ける運命とは・・・多くの人が想像するようなことが、行われていたわけです。性の対象として、男たちの欲望を満たすために売買された女性たち。ですが、なかには当時の知識階級に属する男もいて、そうした男の相手をすることで知識を身につけ、ウィットに富んだ会話で高級娼婦としてのし上がっていった女性も。プリティ・ウーマンをイメージしていただけ...

ジェローム「ローマの奴隷市場」
かつて古代ローマでは女性の地位が低く、奴隷として売買されるケースも多かったとか。ジャン=レオン・ジェロームの「ローマの奴隷市場」は、あわれ女性が値踏みされ、売られていく瞬間を描いた作品です。奴隷の是非や女性蔑視の問題のことはさておいて。それにしても、ちょっと不思議なポーズですよね。ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」のような胸と股間を隠したいわゆる恥じらいのポーズなら分かるんですが、この作品では自...

ジャン=レオン・ジェローム「ピュグマリオンとガラテア」
男は全裸の女性の腰に手をまわし、強く抱きしめながら口づけを交わす・・・。思わず赤面して顔を覆ってしまいそうな絵ですが、よく見るとおかしなことに気づきます。女性の足。足先に向かうに従って、色は白く、無機質に変質していきます。いや、この絵で描かれているのはその真逆。象牙で創られた裸婦像が命を与えられ、徐々に生身の肉体に生まれ変わる瞬間なのです。キプロス島の王、ピュグマリオンは現実の女性を愛することがで...

ピーテル・ブリューゲル「イカロスの墜落のある風景」
なんとなく、昨日の記事のオチがイマイチだったので・・・もう一回、ピーテル・ブリューゲルです。本日紹介するのは、初期の傑作「イカロスの墜落のある風景」。「イカロスの墜落」ではなく、「イカロスの墜落のある風景」。その意味とは・・・?Landscape with the Fall of Icarus(1556-58)Pieter Brueghel the Elder分かりますか?イカロスがどこにいるか、見つかりました?画面右下に注目すると、何やら水面に足がにょきっと...

ピーテル・ブリューゲル「バベルの塔」
昨日行って来た渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムですが、7月17日からは「ブリューゲル版画の世界」という企画展を予定しているそうで。これ、かなりおもしろそうです。ピーテル・ブリューゲルといえば、言わずと知れたネーデルランド絵画の巨匠。版画ではヒエロニムス・ボッス風のグロテスクな作品を多数発表しており、「ブリューゲル版画の世界」ではそっち系の作品が並ぶようで。さて、版画作品については展示を見てから紹介す...

ギュスターヴ・ブリオン「女性とバラの木」(語りかける風景より)
今日は渋谷のBunkamura ザ・ミュージアム、「ストラスブール美術館所蔵~語りかける風景~」を見てきました。渋谷駅前の人混みにうんざりしつつ、でも館内に入れば意外に人が少なくて。おかげでのんびり、美術鑑賞を楽しめました。やっぱりすいてる美術館が一番です。今回、一番印象に残ったのがギュスターヴ・ブリオンの「女性とバラの木」でした。画面中央には、青い髪飾りと白いブラウス、青いスカートをまとった女性の姿。その...

クロード・モネ「日傘の女性」(オルセー美術館展その7)
オルセー美術館展の副題は、「ポスト印象派」。とすれば、印象派の重要人物であるクロード・モネを紹介しないわけにはいかないでしょう。今回の目玉でもある「日傘の女性」は、1886年の作品。再婚相手のアリス・オシュデの連れ子、シュザンヌがモデルとされています。Woman with a Parasol(1886)Claude Monet透き通るような青空と風になびく鮮やかな草花、そして風景に溶け込むような白いドレスの女性が印象的な本作は、「風景画...

ゴーギャン「<黄色いキリスト>のある自画像」(オルセー美術館展その6)
左上に黄色いキリスト像、右上に赤い頭の形の壷。そして中央には、画家の自画像??。ポール・ゴーギャンの「<黄色いキリスト>のある自画像」はなんとも不思議な構図ですが、ゴーギャンの背後の絵と壷は、実際に彼が手掛けた作品を絵の中に描いたもの。キリストは「黄色いキリスト」、壷は「グロテスクな頭の形をした壷」という作品。Portrait of the Artist with "Christ Jaune"(1890-91)Paul Gauguin理性、精神、文化の象徴と...

オディロン・ルドン「目を閉じて」(オルセー美術館展その5)
オディロン・ルドン。彼ほど劇的な変貌を遂げた画家もいないんじゃないでしょうか。オルセー美術館展で展示された彼の代表作「目を閉じて」は、1890年発表、ルドンが50歳のときの作品。水平線の向こうに女性の胸部が描かれる、なんとも幻想的な一枚です。Les yeux clos(1890)Odilon Redon本作を発表するまで、ルドンは「モノクロームのパステル」と称して木炭とリトグラフによる、奇怪な作品を多数発表していました。色彩のない...

ゴッホ「星降る夜」(オルセー美術館展その4)
オルセー美術館展では、「ゴッホとゴーギャン」というテーマのブロックがあってさすがにこちらはものすごい人だかりでした。中でもこの絵は・・・いやでも足が止まってしまう、強烈なインパクト。フィンセント・ファン・ゴッホの1888年の作品、「星降る夜」です。色合いといい、筆使いといい、一歩間違えればグロテスクになりかねない絶妙なバランス。まるで嵐の前の静けさのような。Starry Night Over the Rhone(1888)Vincent v...
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