
カルロ・ドルチ「悲しみの聖母」
なんて深い青なんだろう。この絵の前に立つと、いつも敬虔な気持ちにさせられます。ラピスラズリのかなしくも激しい青は、何よりも雄弁に、聖母の思いを伝えます。カルロ・ドルチ「悲しみの聖母」。国立西洋美術館所蔵の作品です。Mater Dolorosa(c.1655)Carlo Dolciかなしみは しづかに たまつてくるしみじみと そして なみなみとたまりたまつてくる わたしの かなしみはひそかに だが つよく 透きとほつて ゆくこう...

青木繁「黄泉比良坂」
狂おしい青。堕ちていく青。青木繁「黄泉比良坂(よもつひらさか)」のまえで、ぼくはなんだか怖くなって、動けなくなりました。Yomotsuhirasaka, Escape from the Land of the Dead(1903)Aoki Shigeru黄泉の国で再会した、イザナギとイザナミの物語。光のなかで頭を抱え、背を向けるイザナギの姿がこの悲劇を物語っています。それにしても、この青は……。21歳の青年が描くにしては、あまりにも深く暗すぎます。若さゆえの激しさ...

シャガール「ワイングラスをもつ2人の肖像」
肩車をする、男女の肖像。あれ、なんか変だ。担いでいるのは女性じゃないか。マルク・シャガール「ワイングラスをもつ2人の肖像」。奇妙にほほえましい一枚です。Double Portrait with Glass of Wine(1917)Marc Chagallシャガールの作品は、なんでこんなにフワフワしてるんだろうとそれがずっと腑に落ちずにいたのですが、この作品はなんとなーく理解できるような気がします。彼はただ、すなおだったんじゃないかなぁ。しあわせ...

レオン・ド・スメット「窓辺の女性」
前回に引き続き、「窓辺の女性」。今回はレオン・ド・スメットです。白い衣服がよく似合う、女性の後ろ姿が印象的。窓から差し込むひかりはやさしく、花々はうつくしく。Woman at the Window(1909)Leon de SmetBSでゲント美術館を紹介しておりまして、そこでエミール・クラウスと児島虎次郎の名前が出てきました。去年のBunkamuraの展覧会を思い出し、図録を眺めていたら……結局この作品に落ち着いてしまいました(笑)なんの根拠...

フリードリヒ「窓辺の女」
彼女は何を思っているんだろう。フリードリヒ「窓辺の女」。きれいな後ろ姿です。Woman at a Window(1822)Caspar David Friedrich夜があけて、朝がきて、けっきょく窓の向こうに思いを馳せて。遠く遠くを見つめながら、一日が過ぎていきます。今日も明日もがんばろう。 ...

アルフォンス・オスベール「日の出のミューズ」
湖畔にたたずむ、白いドレスの女性。アルフォンス・オスベール「日の出のミューズ」。迷いの夜に、とどまるべきではないんだろうね。La Muse au lever du Soleil(1918)Alphonse Osbert伝えきれなかったもどかしさと、伝えられなかったさびしさが募り結局こんな時間まで起きています。あれからいっしょうけんめい考えたけれど、やっぱり「ありがとう」以外の言葉は見つかりません。これだけは、ここで伝えるべきだと思ったので。...

モーリス・ドニ「水浴」
そこには不安も憂いもなく、よせてはかえす波のあわいに健康的な裸体が躍ります。モーリス・ドニ「水浴」。歓喜の一枚。Bathing(1920)Maurice Denis薄紫の雲は、もうじき日が暮れることを意味しているのでしょうか。天の高みから睥睨するように熱を注ぐ太陽ではなく、あの岩壁の向こうから、大地を包む優しい日差し。そしてドニの手にかかれば、ボートや衣服の白、波の青でさえ、あたたかく見えてきます。この色彩の巧みさと、丸...

橋本雅邦「乳狼吼月」
誰もいない、夜の町。見覚えのある風景。あぁこれは、小学校からの帰り道だ。ふと見上げると、月が皓々と照っている。星々をしたがえて、月が静かに輝いている。そんな夢を見ました。Dam Wolf Howling at the Moon(c.1899)Hashimoto Gahoこちらは橋本雅邦の「乳狼吼月」。半月に向かって吠える、一頭の狼。授乳期の狼は毛を逆立てて、お腹の子を守ろうとしているかのようです。この作品が描かれた前年に、橋本雅邦の師である岡倉...

青木繁「わだつみのいろこの宮」
水を入れた壷をささげもつ、2人の女性。彼女たちの着衣に注目です。青木繁「わだつみのいろこの宮」。これは『古事記』の海幸彦・山幸彦の一場面。Paradise under the Sea(1907)Aoki Shigeru画面上部、木の枝に隠れて座るのが山幸彦。赤い衣をまとい、山幸彦と視線を交わすのが豊玉姫。右側の白い衣の女性は、姫の侍女です。兄・海幸彦に借りた釣針をなくしてしまった山幸彦は、途方に暮れながら綿津見(わだつみ)の宮を訪れ、...

フレンチ・ウィンドウ展に行ってきました
遅ればせながら、森美術館の「フレンチ・ウィンドウ展」に行ってまいりました。フランスの「マルセル・デュシャン賞」の10周年を記念した企画で、同賞のグランプリ受賞作家と一部の最終選考作家、さらにデュシャン本人の作品が集結。写真から映像、インスタレーションまで、フランス現代アートを凝縮した展示でした。ブログでもtwitterでもよく書いてることなんですがぼく、現代アートに関しては無知もいいとこで、「面白いけどよ...

ムンク「サン・クルーの夜」
1890年、フランス留学時代にエドヴァルド・ムンクが描いた「サン・クルーの夜」。深い青が、胸にせまる一枚です。Night in St. Cloud(1890)Edvard Munch窓の左下にかすかに見えるシルエットは、ハットをかぶった男性でしょうか。一人しずかに、夜の街並を見ながら物思いにふけっているのでしょう。遠い故郷のことを思っているのか、それともここにはいない誰かのことを思っているのか。ムンクは5歳のときに母親をなくしています...

ブグロー「夜の雰囲気」
空には白い初月がかかり、夜のとばりが降りてきます。ウィリアム・アドルフ・ブグロー「夜の雰囲気」。扇情的なようで、不思議と穏やかな一枚。Evening Mood(1882)William Adolphe Bouguereau女性がまとっている黒いヴェールが、徐々に深まる夜の闇をあらわしているんでしょうね。はためくヴェールをつまむ右手も、なんだかなまめかしい。こんなに波がたっているのに、海面に映った足がはっきり見えるのもちょっと不思議です。時...

川合玉堂「山雨一過」と芦原すなお「オカメインコに雨坊主」
この道は、いつか来た道。川合玉堂「山雨一過」。先月、山種美術館で見た作品です。荷を負った馬をひいて、峠道を行く旅人。雨上がりのさわやかな風が樹々をゆらし、はるか彼方には青い山肌が。旅路はまだまだ続くのでしょうか、峠道の先は崖に隠れており、仙境につながっているような気もしてくるから不思議です。此岸と彼岸のあわいのような……。生と死の境界線のような……。芦原すなおの「オカメインコに雨坊主」という小説を読ん...

ベルナール「愛の森のマドレーヌ」
もし僕がここで横になったら、君も一緒に寝転んで世界のことなんて忘れちゃおう。Madeleine au Bois d'Amour(1888)Émile Bernardエミール・ベルナール「愛の森のマドレーヌ」。愛の森で横たわるのは、画家の妹。向こうに見えるのは、ポン=タヴェンを流れるアヴェン川。木の幹とくらべてマドレーヌの姿が大きく見えるのは、それだけ画家にとって、妹の存在が大きかったということでしょうか。マドレーヌはこのとき17歳、ポ...

オキーフ「オリエンタル・ポピー」
2本の真っ赤なヒナゲシ。ジョージア・オキーフ「オリエンタル・ポピー」。写真と思いきや、油彩です。寄り添って咲いているようにも見えるし、お互いを押しのけようとしているようにも見えますね。Oriental Poppies(1928)Georgia O'Keeffeヒナゲシは英語でポピー、フランス語でコクリコといいます。映画「コクリコ坂から」のタイトルは、ヒナゲシの花から来てるのかな?個人的には、コクリコといったらこちら。 ああ皐月仏蘭西...

ハンマースホイ「背を向けた若い女性のいる室内」
3年前、国立西洋美術館で開催された「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」。見に行かなかったのをいまだに後悔しており、ずっと図録を探してたんですが……先日の東京アートフェアで、ようやく手に入れました♪ということで今回は、ハンマースホイの「背を向けた若い女性のいる室内」を。Interior, Young Woman Seen from Behind(c.1904)Vilhelm Hammershøiもの言わぬ静かなたたずまい。愁いを帯びた背中、美しいうな...

萬鉄五郎「赤い目の自画像」
これまた何という自画像……。作者はこのとき、20代後半。萬鉄五郎「赤い目の自画像」です。Self Portrait with Red Eyes(1912-13)Yorozu Tetsugoro鬱屈や怒りや妬みが凝縮されたような燃えさかる負の情念を感じさせる一方で、顔を隠してみれば鋭く切り立った氷山のようでもあり。ちょうど同じころに萬鉄五郎は「裸体美人」を発表していますが、こちらは一転、やわらかな曲線でのびのびと描かれた裸体の女性像。衣装の赤も、「赤い...

スーラ「グランド・ジャット島の日曜日の午後」
1886年の第8回印象派展でセンセーションを巻き起こした、ジョルジュ・スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」。「新印象派」という言葉はこの作品を見た批評家が最初につかったもので、まさに新時代の幕開けにふさわしい傑作といえます。A Sunday Afternoon on the Island of La Grande Jatte(1884-86)Georges Seuratスーラといえば、点描。科学的・数学的理論に基づいて配置された無数の色彩の点は隣どうし溶けあい、...

建仁寺の天井画、小泉淳作「双龍図」
圧巻、威容、たたみ108枚分のド迫力。それはもう、首が痛くなるまで見入ってしまいます。建仁寺・法堂の天井画、小泉淳作筆「双龍図」。2泊3日の京都旅、最後に出会ったのがこの作品でした。Twin Dragons(2002)Koizumi Junsaku「双龍図」は、建仁寺の創建800年を記念して描かれた大作。小泉淳作は2002年に鎌倉・建長寺の天井画「雲龍図」を完成させており、そのすぐ後に、依頼を受けて制作に着手……しようと思ったらその大きさゆ...
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