
ゴッドワード「甘美な無為」
ジョン・ウィリアム・ゴッドワード「甘美な無為」。アルマ・タデマを思わせる大理石の表現とイギリス新古典主義の古代描写に加え、やはり印象的なのは黒眼がちの女性の表情。そして横たわる姿とオレンジ色の衣装の襞は、フレデリック・レイトンの「6月の炎」を彷彿とさせます。と、この絵を見てあれこれ考えるのは野暮ってものでしょう。何もせず何も考えず、無為な時間を過ごすのも時にはいいものです。あぁ、こんなふうにのんび...

山本芳翠「猛虎一声」
少し明るくなってから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に虎となっていた。自分は初め眼を信じなかった。次に、これは夢に違いないと考えた。夢の中で、これは夢だぞと知っているような夢を、自分はそれまでに見たことがあったから。どうしても夢でないと悟らねばならなかった時、自分は茫然とした。そうして懼れた。(中島敦「山月記」より) A Roaring Tiger(1895) Yamamoto Housui山本芳翠「猛虎一声」。中島敦の「山月記...

アレクサンダー・ハリソン「海景」
Seascape(1892-93) Alexander Harrison仄白い海の汀(なぎさ)に独り、憂いの思いにふけり、私は坐っていた。日は益々低く傾き、燃えるくれないの縞を水に投げた。そして白い広い波頭は潮に押されて次第に近づき、泡立ち、どよめいた。ふしぎな響き、囁きと笛のおと、笑いとつぶやき、ためいきとざわめき。それに交って、子守唄のように懐かしい歌声。その往時(かみ)、まだ少年の頃隣の児らが話してくれた古い古い可愛い物...

ルドン「アポロンの戦車」(ルドン展より)
紅蓮の炎を思わせる、壮烈な一枚。熱波で溶け出されたような青空を4頭の馬にひかれた太陽神が駆け上がっていきます。オディロン・ルドン「アポロンの戦車」。はっと息をのむほどの、凄まじい作品です。 Apollo's Chariot(1909) Odilon Redonアポロンの戦車はルドンが晩年に多く手がけた主題であり、本作とよく似た構図の作品が愛媛県美術館に所蔵されています。損保ジャパン東郷青児美術館のルドン展では今回ご紹介したボルド...

ルドン「花」(ルドン展より)
1890年代。モノクロームの時代を終えて、ルドンが手にしたのはきらめく色彩でした。次男アリの誕生、そして故郷の喪失。これらの悲喜こもごもはルドンの作風に多大な影響を及ぼし以来、あれほどまでに執着した「黒」は鳴りをひそめ色彩がカンヴァスで踊るようになります。 Bouquet of Flowers(1905-10) Odilon Redonそして10年後、1900年。このころからルドンは花を描くようになります。画家にとって花は格好の題材であり花に...

ルドン「蜘蛛」(ルドン展より)
まっくろくろすけ出ておいでー出ないと目玉をつっつくぞー Spider(1887) Odilon Redon……?まっくろくろすけと蟹を合体させたような10本足の奇妙な生物です。これはオディロン・ルドンの「蜘蛛」という作品。幻想世界の異形の蟲は現実に足をひっかけて笑みを浮かべています。ルドンの画業前半は、こうした奇怪な黒に覆われていました。版画家ブレスダンとの出会いによって開眼したのでしょう、眼球、生首、翼、胞子といった形態...

ルドン「ロンスヴォーのローラン」(ルドン展より)
フランス最古の叙事詩「ローランの歌」。これを題材にオディロン・ルドンが描いたのが「ロンスヴォーのローラン」という作品です。 Roland at Roncevaux(1862) Odilon Redon馬上で背後を振り返る騎士ローラン。手綱をひいたものの立ち止まることを拒んだのか、馬は後脚で立ち上がり、ローランの赤いマントがひるがえります。初期の“黒”とも後期の“色彩”とも異なる、ロマン主義風の荒々しく躍動的な描写。制作年は1862年、この...

コロー「セーブルへの道」
The Road to Sevres(c.1859) Camille Corot田舎の白つぽい道ばたで、つかれた馬のこころが、ひからびた日向の草をみつめてゐる、ななめに、しのしのとほそくもえる、ふるへるさびしい草をみつめる。田舎のさびしい日向に立つて、おまへはなにを視てゐるのか、ふるへる、わたしの孤独のたましひよ。このほこりつぽい風景の顔に、うすく涙がながれてゐる。(萩原朔太郎「孤独」)今日も明日もがんばろう。 ...

モーリス・ドニ「朝食、フィリッポ・リッピ風に」
前回の続きです。フィリッポ・リッピ、聖母子、そして家族ときたら……ぼくが連想するのはこの一枚。モーリス・ドニ「朝食、フィリッポ・リッピ風に」です。 Breakfast(1898) Maurice Denisドニもまた、家族を聖母子と重ね合わせて描いた画家でした。本作はタイトルの通り、フィリッポ・リッピを意識して描かれた作品。幼子に朝食を食べさせる母親の姿はとても清らかで見るものを幸せな気持ちにしてくれます。「朝食、フィリッポ...

フィリッポ・リッピ「聖母子と二天使」
おかげさまで、これで777本目の記事なのです。よくもまぁ続いたものだと我ながら感心。これもひとえに、読んでくださる皆さまのおかげです。真面目だったり緩かったり泣きそうだったり怒り気味だったりそのときどきで思うがままに書いているのであーこりゃいかんな、という内容の記事も時にはありますが……今後もマイペースに続けていきたいと思っております。 Madonna and Child with two Angels(1465) Filippo Lippiというこ...

長澤蘆雪「狗児扇面」
あーこらこらじっとしてなさいこらこらこら動くんじゃないよ動いたら描けないだろうに……あーしかし何と愛らしい仔犬であろう人懐こいし毛並みもいいさてはどこかから逃げてきおったな?なんという悪い子じゃ!いたずらそうな顔をしよってからに……「蘆雪ー蘆雪ーどこじゃー」いかんお師匠様じゃこらお前吠えるでないぞじっとしとるんじゃぞ見つかったら横取りされるでなあの人はわし以上の犬好きいやむしろ犬狂いじゃでな鶏狂いの伊...

ドラクロワ「シビュラと黄金の小枝」
シビュラ。彼女は暗い森のなかに黄金の小枝を指し示し、高貴な心の持ち主と神々に愛されし者たちを征服し、昏き森のなかにて金の枝を揚げる。 La Sibylle au rameau d'or(1838) Eugene Delacroixウジェーヌ・ドラクロワ「シビュラと黄金の小枝」。フランス・ロマン派の雄が描いたのは古代ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩「アエネイス」に登場する巫女です。冥界への道を進むには、黄金の小枝がなければならない。それはシ...

モーリス・ドニ「聖母月」
ナビ派を代表する理論家であり、聖書の画家ともいわれるモーリス・ドニ。名古屋のヤマザキマザック美術館に、彼の絵が2点展示されていました。どちらもあまりに素晴らしくて絵の前のソファに腰かけてしばし時間を忘れて……。今回はそのうちの1点、「聖母月」を。 Month of Mary(1907) Maurice Denisモーリス・ドニ「聖母月 -あるいは春の風景の中の聖母」。白、薄紫、浅黄、桜、薄青などやわらかな色彩と光が画面に満ち満ちてい...

ゾイドシリーズの最高傑作、マッドサンダー
今回はプロダクトデザインのお話。見よ、この雄姿!!マッドサンダー。それは、旧大戦(中央大陸戦争)で無敵を誇ったデスザウラーを倒すため、ヘリック共和国軍が総力をあげて開発したトリケラトプス型の超巨大戦闘機械獣である。「もしマッドサンダーがなければ、共和国軍が旧大戦に勝利することはできなかっただろう」と言われるほどの、伝説的ゾイドだ。(機体説明より)ということで、買ってしまいました。オークションでぽち...

マティス「マグノリアのある静物」
マグノリアが活けられた翡翠色の花瓶の後ろに、オレンジ色の鍋がおいてあるでしょう?大きな丸い口をこっち向きにしてね。まったく、芸術家の感性っていうのはどういうものなんでしょうね。マグノリアと、鍋。そんな取り合わせすら、うつくしい、と思わせてしまう巧妙さ。どんなに陰鬱な時代でも、ひととき、せめて絵を眺めているあいだくらいは、何もかも忘れて、夢を見ることができるように。痛みをなくす麻酔のような力が、先生...

円山応挙「藤狗子図」(応挙展より)
疲れたときは、応挙犬にかぎります。あぁ、とげとげしてた心がゆるんでいく…… Puppies and Wisteria(1781-89) Maruyama Okyo円山応挙「藤狗子図」。藤花図屏風とワンコのいいとこ取りのような作品ですね。藤の花をくわえた茶色いワンコと、おしりを向けた白いワンコがなんとも可愛らしい。この作品も愛知県美術館の円山応挙展に出ていました。展覧会では応挙だけでなく蘆雪や栖鳳などによるモフモフ画も比較的多めで、思わず目...

円山応挙「牡丹孔雀図」(応挙展より)
前回は金地に墨一色の孔雀だったので、今回は極彩色の孔雀をご紹介します。円山応挙「牡丹孔雀図」。これぞ絢爛、めくるめく色彩の一幅です。 Peacocks and Peonies(1774) Maruyama Okyo寿石として珍重される太湖石のうえで飾り羽をあげて下をのぞきこむ雄の孔雀。よく見ると右下から雌の孔雀が顔をのぞかせていますね。うしろには富貴花とも称される紅白の牡丹が咲き誇り、見た目もモチーフも実に縁起のよい作品です。写生の...

円山応挙「松に孔雀図襖」(応挙展より)
先週末、異常に早く目が覚めてしまいこれはもう行くしかない! とばかりに勢いで朝7時の新幹線に乗って、名古屋まで。愛知県美術館の「円山応挙展」に行ってきました。応挙を名乗る以前の作品も含め幅広く網羅的な展示でしたが、白眉はやっぱり……この作品でしょう。 Peacocks and Pines(1795) Maruyama Okyo円山応挙「松に孔雀図」(部分)。孔雀を多く描いた応挙ですが、墨一色で描いた作例は珍しいそうです。金地を背に、飾...

ジョージ・イネス「ブルー・ナイアガラ」
なだれ落ちる瀑布のような、怒濤の一週間でした。とりあえず土曜は休めるので、ゆっくり静養につとめたいと思います。 Blue Niagara(1884) George Innesこちらはジョージ・イネス「ブルー・ナイアガラ」。言わずと知れた名瀑、ナイアガラの滝を描いた作品です。大地がそのまま陥没したかのような形状。水は轟音をたてて流れ落ち、水煙は虹となり、そのうえを鳥が羽ばたいていきます。世界の涯があるとしたら、きっとこんな感じ...

ビアスタット「ヨセミテ渓谷」
また旅に出たいと思いながら日々の雑事に追われています。 Valley of the Yosemite(1864) Albert Bierstadtアルバート・ビアスタット「ヨセミテ渓谷」。黄金の光に包まれた、アメリカの雄大な風景です。ハドソン・リバー派の画家ビアスタットはアメリカ西部の自然を多く描いたことで知られており、コロラドには彼の名にちなんだ山があるんですって。日本ではあまりなじみがありませんが、個人的にはいつか回顧展を開いてほしい...

長沢蘆雪「四睡図」(かわいい江戸絵画より)
猛獣のはずの虎が、目を細めて老人に体を預けています。まるで猫のように安心しきった表情。長澤蘆雪「四睡図」、これもまた愛らしい一枚です。 The Four Sleepers Nagasawa Rosetsu「四睡図」に描かれている老人は中国唐代の僧、豊干禅師。虎の背に乗って民衆を驚かせていた人物だそうで、彼の弟子が日本画でもおなじみの寒山と拾得なんですね。この3人+1頭が、身を寄せ合ってすやすや眠っているわけです。虎は甘えてほっぺた...
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