上村松園「焰」
元々は「生き霊」と名付けられるはずだった作品です。
靄のような黒髪を口に含み、
ぬっとこちらを振り返る禍々しい表情。
そこにあるのは激しい嫉妬心のはずですが、
目には微かな愉悦が浮かんでいるようにも感じられます。
あるいは狂気とはこのようなものであるのか。
獲物を絡めとる蜘蛛のように、ひたひたと歩み寄る。
上村松園の異色の一枚、「焰」という作品です。
Flame(1918)
Uemura Shoen
「焰」は謡曲「葵上」を題材に描かれた作品。
恐ろしげなこの女性は六条御息所の変わり果てた姿です。
光源氏の恋人であった彼女は、正妻である葵上に激しく嫉妬し、
ついに生き霊となってしまう……。
情念は黒い炎となり、むしろ地に広がって行くかのようです。
松園がみずから「唯一の凄艶な絵」と評した傑作「焰」は、
東京国立博物館の本館18室にて展示されていました。
近くには高村光雲の「老猿」があり、
あいだに立つと足がすくんでしまうような……。
ものすごい取り合わせでしたよ。
今日も明日もがんばろう。
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