佐伯祐三「立てる自画像」
創作活動に悩みや迷いはつきものですが、
心の葛藤をここまで直截に描いた作品も珍しいと思います。
佐伯祐三「立てる自画像」。
自画像の命とも言える顔を削り落した、苦悩の一枚です。
Standing Self-Portrait(1924)
Saeki Yuzo
30歳という若さで亡くなるまで、
わずか6年たらずの活動期間の多くをフランスで送った佐伯祐三ですが、
そこでの画家生活は決して順風なものではありませんでした。
1924年の初夏、最初の渡仏時に自信作の裸婦像を
フォービズムの画家・ヴラマンクに見せたところ、
かえってきた答えは「アカデミック!」という激しい批判。
怒号は1時間半にもおよび、佐伯はうちのめされるばかりだったといいます。
そして彼はそれまでの画風を捨て、フォービズムへと傾いていくわけですが……。
「立てる自画像」は、そうした変化のさなかに描かれたもの。
アンリ・ルソーが描く自画像のように
道や遠景に対して人物が非常に大きく配置されていますが、
そこに漂うのは悲壮感ばかりです。
パレットと筆を手にして途方に暮れているような、そんな佇まい。
どこに向えばいいのか、どれだけ進めばいいのか……。
顔を削り取ったのは、迷いを断ち切るためだったのでしょうか。
塗り重ねるのではなく、削り取る。
よほどの覚悟がなければできない行為だと思うのです。
今回ご紹介した「立てる自画像」は、静岡県立美術館の
「佐伯祐三とパリ」という企画展で展示されていました。
会場を入って一番最初に目に飛び込んでくるのがこの作品で、
画家の生涯を語るうえで避けては通れない一点。
カンヴァスの裏面には
「夜のノートルダム(マント=ラ=ジョリ)」という作品がさかさまに描かれており、
展覧会ではカンヴァスの両面から、2つの作品を見ることができます。
ここから佐伯は、力強くも寂しげなユトリロ風の街並を描くようになり、
1928年、自殺未遂の果てに精神病院で衰弱死します。
旺盛な制作意欲をみせながらも、
最後まで苦悩から解き放たれることはなかったのかもしれません。
慰めは家族の存在だったのでしょう。
次回は、そのあたりに焦点をあてて佐伯祐三の別の作品を紹介したいと思います。
今日も明日もがんばろう。
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