千曲川旅情 〜島崎藤村の旅〜
小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
緑なす繁蔞(はこべ)は萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾(ふすま)の岡邊
日に溶けて淡雪流る
あたゝかき光はあれど
野に滿つる香も知らず
淺くのみ春は霞みて
麥の色わづかに靑し
旅人の群はいくつか
畠中の道を急ぎぬ
暮れ行けば淺間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む
(島崎藤村「千曲川旅情の歌」より)
だいぶ間があいてしまいましたが、先週の軽井沢旅行の続き。
初日は新幹線で軽井沢まで行って、しなの鉄道に乗り換えて小諸まで。
そこは島崎藤村が教員時代を過ごし、千曲川を歌った舞台です。
小諸駅を降りてすぐの場所に懐古園という城址があり、
そのなかに島崎藤村記念館があるのです。
昔実家からモンキーで行こうとしたものの
道中で気が変わって福島行きに切り替えたことがありまして、
実に10年あまりの時を経て、ようやくたどり着いたという次第で。
懐古園の園内。いい雰囲気♪
記念館には藤村直筆の書や手紙、小諸時代に書かれた書籍などが展示されており
生徒の作文に対する赤字なんかも飾られていました。
藤村先生いわく、「文章は親の肩をもむような気持ちで書くべし」と。
また初歩のうちは、「筍のようにすくすく書きなさい」と。
生徒たちからの信望も厚かったようで、良き指導者であったことがうかがえます。
園内には藤村の詩碑だけでなく、若山牧水や高浜虚子の歌碑・句碑も。
展望台からは木立の向こう、眼下を悠々と流れる千曲川を一望でき、
少し歩けば小諸出身の近代洋画家、小山敬三の美術館もありました。
梅雨の合間ゆえ天候はいまひとつでしたが、
降ったりやんだりの小雨のなか旧跡を歩くのもなかなか良いものでした。
藤村「椰子の実」の詩碑。
さて、わざわざ小諸まで藤村を追いかけたので、
せっかくなら宿も……ということで、
藤村がたびたび利用したという「中棚荘」というところに宿泊。
100年以上の歴史ある温泉宿で、
館内にはなるほど藤村の作品がずらっと。
ミーハーな文学青年(もうおっさんか?)はそれだけでウキウキしてくるのです。
記事の冒頭で藤村の代表作「千曲川旅情の歌」を紹介しましたが、
最後のほうの「千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ」
と歌われる宿こそ、この中棚荘なんですって。
当然「濁り酒」も飲ませていただきました。
中棚荘(水明楼からの眺め。上のほうに見えるのが千曲川)。
鳥のさえずりに耳傾けながら体を横にして読書にふけるのも幸せなら、
ちょいとぬるめの露天風呂で汗を流すのもまた幸せで。
料理もおいしいし対応も丁寧だし、言うことなしでした。
ちなみに10月から4月にかけては湯船に林檎をたくさん浮かべた
「初恋りんご風呂」というのが有名なんだそうで、
また秋ごろにでも訪れたいなぁと思っております。
そうそう、種田山頭火が宿泊した旅館のなかで、
唯一現存しているのが中棚荘なんだそうです。
山頭火好きの方も是非利用されてはいかがでしょうか。
旅館の中には、こんな感じで藤村にまつわる品々がたくさん。
今日も明日もがんばろう。
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