ホイッスラー「灰色と黒のアレンジメント第1番」
だらだらと「オルセー美術館展」の注目作品を紹介してまいりましたが、
今回で区切りにしようかな、と思います。
最後にご紹介するのは、ホイッスラーの作品。
9月から京都、12月から横浜で開かれるホイッスラー展への期待がいやでも高まる、
代表作「灰色と黒のアレンジメント第1番」であります。
Arrangement in Grey and Black, No.1(1871)
James Abbott McNeill Whistler
モデルはホイッスラーの母親。
67歳という老齢の母の健康を案じていたホイッスラーは、
その姿を肖像画として残すことを決意します。
約3ヶ月をかけて完成した作品は
日本の浮世絵の影響を思わせる単純化された形態、色面のなかで
毅然とした表情で正面を見据える、強き母親の姿が描かれています。
国立新美術館の「オルセー美術館展」では肖像のコーナーが設けられており
ティソ、バジール、モネ、カバネル、ルノワール、セザンヌなど錚々たる顔ぶれでしたが
そのなかでもホイッスラーの作品は群を抜いているように感じました。
その静けさは、絵の前にたてばきっと分かるはずです。
最後に、この絵についてベルギー象徴派の詩人ローデンバックが書いた言葉を。
黒い服から垣間見える体の線は、なんと大胆でみずみずしいことか。
そして心理描写のなんと深いこと。
精神それ自体が絵筆によって従順になり、
それが顔の花飾りにまで見られる。
そしてこの白のなんと慎ましいこと。
レースのボンネットの白、このしぐさで手にもったハンカチの白、
初聖体拝領者のようではないか。
老女が純真無垢だった頃に戻るというのだろうか。
そして小さな花がちりばめられたカーテンの深い黒。
その背後では女性の人生の全てがざわめいているが、
それは遠のき、忘れられてゆく。
そしてこうした白と黒をつなぎ合わせるために、
壁に密着した灰色全体が靄のように漂い、
それらを和らげて、いわば死した灰と、
母の心から飛び立っていった年月の灰とを
外で一つのものにしているのだ。
今日も明日もがんばろう。
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