ヘッセ「テッスィーンの山村」
暮れ方の斜めに射す金色の光の中に
ひと群れの家が静かに輝いている
みごとな深い色に染まって花と咲く
彼らの団欒の夕べは まるで祈りのようだ
ひとつひとつの家が親密に寄り添い
兄弟のように丘の斜面に並んでいる
素朴でなつかしい まるでひとつの歌のように
習わないのに誰でもうたえる歌のように
石壁と 漆喰壁と かしいだ屋根と
貧しさと誇りと 衰退と幸福とが
やさしく おだやかに そして深く
夕空にその輝きを照り返す
(ヘルマン・ヘッセ「夕暮れの家々」)
Tessiner Bergdorf(1920)
Hermann Hesse
ヘルマン・ヘッセの画文集を読みました。
タイトルは「わが心の故郷 アルプス南麓の村」。
第一次大戦によるドイツからの亡命、
ヘッセが選んだ新天地はスイスのテッスィーン地方。
ここで彼は一人静かに暮らし、心を癒しながら
次々に傑作を書き上げていきます。
本書におさめられているのは、この美しいアルプスの自然に対する
少年のような憧憬と、限りない好奇心を綴ったエッセイの数々。
ときに自身の過去や社会情勢、周囲の人々に対する辛辣な言葉も紛れますが
それは孤独の側面であり、それよりもなお、一人の生活を楽しんでいる様子が
言葉のひとつひとつから伝わってきます。
花や草木、蝶などに注ぐ穏やかで慈愛に満ちたまなざしや、
アルプスの自然に身をあずけながら読み進める読書の話など
どれも豊かで、悠々とした生活ぶりがうかがえます。
そしてエッセイの合間におさめられた、詩と水彩画。
特に水彩画はのんびりとおおらかで、曲線や色面は
同じくドイツ出身の画家であるフランツ・マルクやアウグスト・マッケを思わせました。
あぁ、アルプス山麓……とは言わないまでも、
軽井沢とか涼しいところで暮らしたいものです。
今日も明日もがんばろう。
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