ルソーとデュシャンとアンデパンダン展
美術館っていうと、
真っ白な壁、真っ白な室内、
そしてある程度間隔をあけて展示された絵画を連想する人も多いかもしれません。
中には作品に合わせて壁を真っ赤にしたりっていうのもあるけど、
まぁ展示方法は似たり寄ったりですよね。
無菌室みたいなものすごくきれいな環境で展示するこの方法を
「ホワイトキューブ」といって、賛否両論なんです。
個人的には、すいてるホワイトキューブは好きだけど
混んでるホワイトキューブは大嫌い。
もっと雑然としてていいんじゃないかな?なんて思ったりもします。
Design for the Grand Gallery in the Louvre (1796)
Hubert Robert
こちらはユベール・ロベール「ルーヴルのグランド・ギャラリー改革案」です。
所狭しと並べられた作品群。
絵の前に座り込んで模写する人もいれば、子ども連れの姿も。
絵画をことさらに高尚なものとして隔離せず、
このくらい自由な雰囲気で接することができたら素敵です。
さて、自由な絵画展というと、思い浮かぶのがアンデパンダン展です。
セザンヌ、ゴッホ、ルソー、スーラ、シニャック、ロートレック、ルドンなど
多くの有名画家を輩出した絵画展で、
フランスで始まり、やがて各国へ飛び火して行きました。
会費と展示費さえ払えば、どんな素人でも出品できるというもので
会場の大きさにもよりますが、一人10点まで出品できる場合もあったそうです。
アンデパンダン展の名物男といえば、やっぱりアンリ・ルソー。
独自の作風ゆえに観衆に罵倒・嘲笑されながらも
愚直に出品を続け、やがてピカソに見出された執念の画家。
彼はアンデパンダン展そのものを愛し、
アンデパンダン展への参加を呼びかける作品、
「第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家たちを導く自由の女神」を発表しています。
La Liberté invitant les artistes à prendre part à la 22e exposition des Indépendants(1906)
Henri Rousseau
さて、もう一人、アンデパンダン展を語る上で欠かせない芸術家がいます。
それがマルセル・デュシャン。
既製の製品などに少し手を加えることで
本来の意味を失わせ、新たな概念を植え付ける
「レディ・メイド」という作風が有名で、
彼もまた、ニューヨークのアンデパンダン展に出品した経験があります。
ただし、そのときデュシャンは同展の審査員をつとめており、
偽名を使ってこっそり出品したわけです。
それが彼の代表作、「泉」です。
Fountain(1917)
Marcel Duchamp
ところが。
「泉」はその価値を委員会に認められず、
展示を拒否されてしまいます。
そしてデュシャンは審査員を辞任し、
オリジナルの「泉」も紛失してしまうのです。
そもそも、なぜデュシャンは「泉」のような作品を、
あえてアンデパンダン展に匿名で出品したのでしょうか。
そこに芸術嫌いの芸術家であるデュシャンの思いが隠れているように思います。
冒頭で紹介した「ホワイトキューブ」という考え方。
芸術作品を鑑賞するうえでは、この上ない方法なのかもしれませんが
環境が素晴らし過ぎるが故に、
どんな作品でも良く見えてしまうという弊害もあります。
女性が浴衣を着ると3割増しできれいに見える、みたいな。
たとえばルソーの作品や、
パウル・クレーみたいな抽象画。
作者も作品も、何の事前知識もなしに見たとき、
「これは素晴らしい!」と言い切れます?
僕はちょっと自信がありません。
ピカソの作品でも通り過ぎてしまいそうです。
でも、ホワイトキューブのような環境で分かりやすく展示されていれば、
「あぁ、この作品には何か意味があってすごいんだな」と
何となく納得できるわけです。
作品そのものではなく、環境が与える力が大きいってことです。
一方のアンデパンダン展。
こちらは基本的に素人や日曜画家が参加するものですから、
玉石混淆どころかほとんど石です。
展示方法も、個人的な推測ですが
ドンキみたいな雑な展示だったんじゃないかと思います。
でもそのなかにあっても、
歴史に残る作品はしかるべきオーラを放ち、
観衆を惹き付けるんです。
むしろ、何の知識もない観衆をも惹き付けるからこそ芸術家たりえるわけで。
そうやって世に認められたのが、先に挙げた画家たちなのです。
デュシャンは「みるものが芸術をつくる」という考え方を持っており、
これもまた、ホワイトキューブのような美術館ではなく
アンデパンダン展を発表の場に選んだ理由につながっている気がします。
そしてもうひとつ。
アンデパンダン展のような作品の山に埋もれることで、
逆に存在感を際立たせるタイプの芸術もあると思います。
既成の概念からずれていればいるほど、その傾向は強まりますよね。
先入観なしに受けた衝撃は、それこそ強く印象に残るものです。
「泉」は、まさにそういうタイプの作品だと思うんだけどいかがでしょう。
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