ティツィアーノ「鏡の前の女」
四角い小さな手鏡と
まるい大きな鏡にはさまれて
女性は右手に髪の毛を、左手に香水瓶を持ち
身繕いの最中です。
ティツィアーノ「鏡の前の女」。
こちらも国立新美術館の「ルーブル美術館展」より。
Woman with a Mirror(1512-1515)
Tiziano Vecellio
胸元が大きく開いたドレス、
あらわになった左肩の曲線、
右腕のカーブも指先も、実に官能的です。
「ふくよかな女性もいいよねー」と思った男性も多いのでは。
女性も自分の美しさに見惚れているものか、
無遠慮に顔を凝視する男性の目線(実は胸元を見てる?)にも気付かない様子。
2つの鏡は終わることのない鏡写しの世界を作り出していて、
そこにとらわれた自身の姿に見入っているのかもしれません。
さて、絵の中に鏡が描かれていれば、
そこに暗号めいたものがあるのでは……と期待してしまうもの。
実際、同じくルーブル美術館展で展示されていた
クエンティン・マセイスの「両替商とその妻」という作品でも、
手前に置かれた鏡には、金を借りにきたと思われる男性が写り込んでいました。
それではティツィアーノの「鏡の前の女」はいかに……。
鏡にうつり込んでいるのは、女性の背中です。
正面と背面を同時に描き、絵のなかに立体を埋め込むことで、
ティツィアーノは「二次元の絵画よりも三次元の彫刻のほうが優れている」
といった当時の意見に対抗してみせたとのこと。
なるほど、鏡が大きいわけです。
国立新美術館の「ルーブル美術館展」は、6月1日(月)まで。
これまで紹介してきたフェルメール、ムリーリョ、ティツィアーノの他にも、
ブーシェ、フラゴナール、シャルダン、ヴァトー、レンブラントなど
錚々たる面々の風俗画が一堂に会します。
作品が描かれた当時の文化や風習に思いを馳せながら、名画に浸るぜいたくな時間。
フェルメール抜きでも十分に成立する、見応えのある展覧会でした。
おすすめです。
今日も明日もがんばろう。
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