小杉放庵「天のうづめの命」
天照大神(アマテラスオオミカミ、地元ではテンテルさんと呼んでた)が
天の岩戸に隠れてしまうと、
たちまち世界は真っ暗になってしまいます。
そらもう、わやくちゃな有様でこりゃあ困ったと八百万の神様方。
思案のすえに鏡やら勾玉やらをこしらえて、
満を持して登場したのがこの人、アメノウズメです。
Ame-no-Uzume-no-Mikoto(1951)
Kosugi Hoan
アメノウズメが神懸かりして(神様なのに??)
胸をさらけ出して踊ると、
神様達はいっせいに大笑い。
それはもう高天原がわっさわっさと揺れ動くほどのもので、
気になった天照大神は天の岩戸の扉を思わず開けてしまいます。
自分のいないところで楽しそうにしくさってからに……! といったところでしょうか。
この劇的なアメノウズメの踊りを描いたのが、
小杉放庵の「天のうづめの命」という作品。
見てるこちらも思わず笑ってしまいそうな、
愉快や愉快、躍動感に満ち満ちた一枚です。
昭和26年、日本最大の出光興産タンカー日章丸二世のために
小杉放庵が描いたもので、船長室に飾られていたそうです。
勇ましい海の絵ではなく、ゆるゆる飄々とした絵を贈ったというのも
なんとも痛快なエピソードです。
小杉放庵はもともとは洋画家を志しており、そのときの雅号は小杉未醒。
自分としては未醒の名で描かれた東京国立近代美術館所蔵の「水郷」、
かの漱石が絶賛したというシャヴァンヌばりの作品が強く印象に残ってまして。
その後こんな剽げた作品を描いていたとは知りませんでした。
日本画に転向したきっかけは
パリで偶然目にした池大雅の「十便帖」(複製)だったそうで、
なるほどなぁと思いつつ、ここまで作風が変わるものかと衝撃でもありました。
小杉未醒「水郷」。シャヴァンヌの「貧しき漁夫」からの影響が指摘される傑作。
小杉放庵の「天のうづめの命」は出光美術館で展示されていたもの。
展覧会は画家の没後50年を記念し、
若かりしころに手がけた風景画や漫画、
「水郷」に代表される西洋画、
そして文人画から「天のうづめの命」など悠々自在な日本画まで、
変化に富んだ作品群を堪能できるすばらしい内容でした。
日本画家としての底力を見せつけてくれるような花鳥画もただただ美しく、
画家のてのひらの上で心地よく転がされているようなひとときでした。
残念ながら、展覧会は本日で終了でして
もっと早くに紹介しておくべきだったと反省しきりです……。
これまた愉快で愛らしい金太郎。小杉放庵「金時遊行」。
小杉放庵「銀鶏春光」。文句なしの傑作!
ちなみに今回の文章の最初のほう、
芦原すなおの「スサノオ自伝」をちょっと意識しました(笑)
アメノウズメは国立高天原学校の教師として、
音楽、舞踏、そして性の伝道者として登場します。
奇想天外、ユーモアたっぷりにスサノオの生涯を物語り、
宇宙の成り立ちから人間のあり方まで途方もない哲学を秘めた大作。
おすすめの一冊であります。
今日も明日もがんばろう。
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