ボッティチェリ「受胎告知」
どんなに素晴らしい作品を集めたとしても、
どんなに素晴らしい構成であったとしても、
たったひとつの作品によって
展覧会の印象が大きく変わってしまうことがあります。
Bunkamura ザ・ミュージアムの「ボッティチェリとルネサンス」も、
そんな展覧会でした。もちろん良い意味で。
Annunciation to the Virgin Mary(1481)
Sandro Botticelli
ルネッサンス誕生の背景にあったフィレンツェ金融業、
その証ともいえる金貨の数々。
そしてメディチ家の隆盛、富のさまざまな側面。
知的好奇心を見事にくすぐりながら、
要所要所でボッティチェリの鮮やかで優美な作品が織り込まれていくわけで
これはよくできた展覧会だなぁと感心しながら見ていたんですが、
この「受胎告知」の前で、すべての印象がかき消されてしまいました。
243×555cmの大画面、そこに描かれているのは
大天使ガブリエルと、若きマリアの姿です。
奇跡の瞬間を目の当たりにしてしまったような、恐れ多いような気持ち。
圧倒されるというよりは引き込まれるような絵画体験でした。
実際、この「受胎告知」は鑑賞者を
絵の世界に引き込むように描かれていると感じました。
遠近法の消失点は画面左、大天使ガブリエルの顔のあたりでしょうか。
床の幾何学模様も、マリアの前屈みの姿勢も、
この一点に吸い込まれていくような印象を受けます。
画像だと分かりづらいですが、
ガブリエルの背後からは放射状に金の光が伸びています。
本来このエピソードの主人公であるべきマリアよりも、
ガブリエルの方が目立ってしまっている。
その理由は、この壁画が描かれた場所にあるようです。
もともとはシエナの病院が管理していた修道院の壁に描かれていたそうで、
ペストの猛威が収まったことを神に感謝して制作されたとのこと。
祈る意外に術のない時代だったからこそ、
苦難を乗り越えたとき、いっそう神への感謝の思いが涌き上ったのでしょう。
「受胎告知」部分。ポール・マッカートニーに似ているような気がしなくもない。
Bunkamura ザ・ミュージアムの「ボッティチェリとルネサンス」では、
「受胎告知」のほか、ボッティチェリの作品が世界各地から10数点も集まっています。
なかには、イタリア政府の「門外不出リスト」に登録されていたという傑作も。
会期は6月28日までですが、GW前に行くことをおすすめします。
門外不出の傑作「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」。5月6日までの期間限定です。
今日も明日もがんばろう。
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