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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

ヘレン・シャルフベック「快復期」

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ヘレン・シャルフベック。
聞き慣れない名前ですが、
近年世界的に注目されているフィンランドの画家だそうです。
19世紀末から20世紀初めに活躍した女性画家の展覧会が、
東京藝術大学大学美術館で開かれています。


ヘレン・シャルフベック「快復期」
The Convalescent(1888)
Helene Schjerfbeck




3歳のときに事故で下半身に障害を負い、
学校に通うことができず家庭教師から教えを受けたシャルフベックは、
やがて絵画の才能を見出されて
11歳にしてフィンランド芸術教会で学ぶようになります。
そして18歳で奨学金を受けてパリへ。
留学先でイギリス人画家と出会い婚約するものの、
手紙で一方的に婚約を破棄されてしまいます。
上にあげた「快復期」という作品に見えるのは、
失恋の痛手から立ち直ろうとするシャルフベックの姿。
芽ぐむ小枝をじっと見つめる病み上がりの少女に、自身を重ね合わせたのでしょう。
この作品は1889年のパリ万博で銅メダルに輝き、
現在も国宝級の作品として国立アテネウム美術館に所蔵されています。
その筆致はどことなくマネに近いように感じましたがいかがでしょうか。


再びフィンランド・ヘルシンキに戻った
シャルフベックの画風は、ここで大きく変化します。
当時ヨーロッパ中の注目を集めていたホイッスラーの作風に近づき、
抽象へと傾斜していくのです。
またセザンヌの画風も意識していたようで、
時代の息吹を敏感に感じ取りながら作風を変えていったことがうかがえます。
「赤いりんご」はルドン×セザンヌのようですし、
「お針子(働く女性)」はホイッスラーそのもの。
後にはマリー・ローランサンのような女性像を描いたり、
エル・グレコに傾倒したりとめまぐるしくタッチを変えていきます。


ヘレン・シャルフベック「赤いりんご」 ヘレン・シャルフベック「お針子(働く女性)」
セザンヌ・ルドン的「赤いりんご」とホイッスラー的「お針子(働く女性)」



彼女はピカソのように、
新しいモデルを見つけるたびに新境地を切り開いていったようです。
それが良い方向だったのかは分かりませんが……。
やがて過去の自作を抽象的に再解釈した作品を発表するようになりますが、
このときすでに、彼女の行く末は暗示されていたのかもしれません。
自分自身の過去を見つめ、鏡にうつる自己を見つめ、
このころ描いた自画像は自傷的といってもいいほど平衡を欠いているように感じました。


シャルフベックの人生は、幸福とはいえないものだったかもしれません。
絵を描くだけでは生活が成り立たず、平日は教職について空いた時間で絵筆を握る日々。
50代のころには19歳年下の男性に恋をするもかなわず、失恋のショックで2か月の通院。
葛藤をカンヴァスに叩きつけることもあったでしょう。
生きていくことは時に難しく、その苦しみを表現することはなお難しい。
それでも彼女が喜びを感じるのは、絵を描いているときだったそうです。



会期は7月26日まで。
幸福な気持になれる展覧会ではありませんが、
幸福とは何か、表現とは何かを考えさせられる展覧会でした。

シャルフベック展チラシ





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