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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

パウル・クレー「蛾の踊り」と中原中也「朝の歌」

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子どもの落書きのような、
いかにもパウル・クレーな絵。
でもじっと見つめていると、なぜだか哀しくなってくるのです。


蛾の踊り
Dance of the Moth(1923)
Paul Klee




愛知県美術館所蔵、
パウル・クレーの「蛾の踊り」。
踊りというにはあまりにも不自由で、
見えざる力にがんじがらめにされているような印象です。
胸には矢が突き刺さり、
下方に伸びる幾本もの矢印は彼女の飛翔を妨げるようであり、
それにあらがうように彼女は細かく羽根を震わせ、
足をばたつかせ……。


そういえば「彼女」という表現を使ってますが、
僕にはこの絵、女性を描いているように見えるんですよね。
気のせいかな? 皆さんどうでしょう?


色使いもまた、哀しげですね。
この青の深さといったら。
横方向に画面を貫く濃い青は
ちょうど彼女の腰のあたりと重なり、
その動きを縛り付けているかのよう。
そして顔のあたりに目をやると、
うっすら十字架のようなものが見えてきます。
どこか静謐で神々しくさえ感じられるのはこのせいなのかな。


最期に、この絵にぴったりの詩を紹介しましょう。
中原中也の「朝の歌」です。


天井に 朱きいろいで

  戸の隙を 洩れ入る光、

鄙びたる 軍楽の憶ひ

  手にてなす なにごともなし。

小鳥らの うたはきこえず

  空は今日 はなだ色らし、

うんじてし 人のこころを

  諫めする なにものもなし。

樹脂の香に 朝は悩まし

  うしなひし さまざまのゆめ、

森並は 風に鳴るかな

ひろごりて たひらかの空

  土手づたい きえてゆくかな

うつくしき さまざまの夢。




天井からぼんやり射し込む光、
そして憂いをはらんだはなだ色(薄い藍色)の空。
この詩の前年、恋人の長谷川泰子が
中也の友人だった小林秀雄のもとに去って行ったのは
よく知られたエピソードです。
中也の孤独はいかばかりだったか。
しかし彼はこの悲しみを糧にして、
「朝の歌」という傑作を生み出すのです。
そして2ヵ月後、中也は恋敵である小林秀雄に
この詩を見せに行くんですね。


結果として、「朝の歌」は中也にとって
初めて機関誌に掲載され、活字となった記念すべき詩となります。
自由詩が台頭していたこの時期に、
ダダイズムを通過した中也が
このような定型詩を作ったというのも注目に値します。


中也は「朝の歌」をきっかけに詩人として生きて行く決意をし、
同年春に入学したばかりの中大を、秋に中退してしまいます。
そして詩集の発表、結婚、長男の誕生と順風満帆と思えたのも束の間……。
弟の死、そして長男・文也の死によって、
中也は精神を深く病んでしまうのです。
享年30歳。
一度は田舎に帰って詩人として返り咲く決意を固めるも、
病の前ではあっけなく、あまりにも早過ぎる死でした。


詩人としての光を求め、
しかし因習や不幸に身を縛られ、
若くして亡くなった中原中也。
パウル・クレーの「蛾の踊り」を見ていたら、
なんとなく彼の事を思い出してしまったのです。
高校時代から僕は中原中也の詩が好きなんですが、
いつの間にか、彼が亡くなった年齢と同じになってしまったんだなぁ。



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