fc2ブログ

足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

皇后エリザベータ・アレクセーエヴナ

0   0

井上靖の「おろしや国酔夢譚」を読みました。
江戸末期、ロシアに漂流した大黒屋光太夫らの数奇な運命を描いた小説です。
当初アムチトカ島という土民の島に流れ着いた光太夫たちは、
その地に留まっていたロシア人たちと協力して船をつくり、
自力でカムチャツカへ、そしてロシア内を転々とし、
ついにはロシアの最高権力者、女帝エカチェリーナ2世をも動かし
日本への帰国という約10年越しの宿願を実現させます。


さて、このエカチェリーナ2世が本書における重要人物なわけですが、
彼女の描写において、意外な画家の名前が出てきます。
その名はヴィジェ=ルブラン。
マリー・アントワネットのお抱え画家として名を馳せた女流画家です。
フランス革命の難を逃れて亡命したルブランは、
フランスからイタリア、オーストリアと渡り歩き、やがてロシアへ。
貴族たちの支持を得て、ルブランもまた、エカチェリーナ2世に拝謁かなうわけです。
以後、彼女は皇族の肖像画を多く手掛けるようになります。
光太夫ほどではないにせよ、こちらもかなり波瀾万丈。


皇后エリザベータ・アレクセーエヴナ
Empress Elisabeth Alexeievna(1795)
Vigée Le Brun
※クリックすると拡大してご覧いただけます。




前置きがだいぶ長くなりました。
こちらはヴィジェ=ルブラン「皇后エリザベータ・アレクセーエヴナ」。
エカチェリーナ2世の孫息子、アレクサンドルの奥様の肖像画です。
この作品が描かれた時点で、アレクサンドルはまだ皇帝ではないから
皇后という訳は間違っているような気もしますが……
細かいことは置いておきましょう(笑)。
重要なのは、ルブランがエカチェリーナ2世のお眼鏡かなって、
こういった後に皇后になるような人物の肖像画を描いていたということです。
ほかにもエカチェリーナ2世の後を継いだ
パーヴェル1世の娘たちの肖像画も手掛けており、
あまりいい表現ではありませんが、相当な世渡り上手であったことが伺えます。
で、彼女のこういう資質は美術史家だけでなく、
歴史家にとっても重要だったようです。


前述の「おろしや国酔夢譚」によると、
エカチェリーナ2世の伝記を書いたカ・ワリシェフスキーは
晩年における女帝の外貌について、最も信頼できる記述として
ルブランが書き残した印象を挙げているのだとか。


フランス革命によって祖国を捨て、ロシアに流れ着いたルブランですが、
1802年には一時フランスに帰国し、ナポレオンの妹の肖像画を描いています。
その後ナポレオンとの不和からスイスに移り、王政復古とともに再びフランスへ。
祖国からロシアへと運命に翻弄されながらも、
持ち前の才覚で再び祖国の土を踏むという生き様は、
大黒屋光太夫と相通じるところもあって何とも感慨深いものがあります。


母国で息を引き取ったルブランですが、
その墓碑銘は「ここで、ついに、私は休みます」。
一方、光太夫の最期は……?
気になる方はぜひ、「おろしや国酔夢譚」を。
映画にもなってるんで、そちらのほうが取っ付きやすいかもしれません。


■おまけ
今回ご紹介した、エリザベータ・アレクセーエヴナの旦那様、
アレクサンドル1世の肖像画「天才アレクサンドル1世」。
こちらもルブランの作品。どっひゃー

天才アレクサンドル1世
Allegory of the Genius of Alexander I(1814)
Vigée Le Brun




ぽちっとお願いします!
人気ブログランキングへ  Twitterボタン



おろしや国酔夢譚 (文春文庫 い 2-1)おろしや国酔夢譚 (文春文庫 い 2-1)
(1974/01)
井上 靖

商品詳細を見る


関連記事

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

trackbackURL:http://suesue201.blog64.fc2.com/tb.php/170-61d64b3d
該当の記事は見つかりませんでした。