デューラー「メレンコリア1」
藝大美術館のあと、上野公園を通り抜けて国立西洋美術館へ。
「アルブレヒト・デューラー版画・素描展」を見てきました。
デューラーの作品だけで157点、なんて贅沢な!
藝大美術館で展示されてた黙示録もよかったけど、
トータルバランスで言ったらやっぱりこっちは圧倒的でした。
人が少ないのが不思議なくらい。
Melencolia ?(1514)
Albrecht Dürer
※クリックすると、画像を拡大してご覧いただけます。
こちらは1514年の銅版画「メレンコリア1」。
本展のラストを飾る、ドイツ美術を代表する傑作です。
この時期、多忙を極めていたデューラーは一切油彩画の制作を行わず、
代わりに私的な作品として3つの版画を手掛けています。
「騎士と死と悪魔」「書斎の聖ヒエロニムス」、
そして今回ご紹介する「メレンコリア1」です。
これらはサイズがほぼ同じ(約25×18cm)なこと、
個々の完成度の高さもあって3つセットで語られることが多く、
これらを一度に見られるっていうだけでも、本展を訪れて損はないと思います。
Knight. Death and Devil(1513)/St Jerome in His Study
Albrecht Dürer
さて、「メレンコリア1」。
iPadとほぼ同じサイズのこの作品ですが、
これでもかというくらいの要素と謎が凝縮されています。
たとえば左上、題字を広げたコウモリの右に見えるのは落下する彗星。
1494年、実際にデューラーは彗星が地表に落下するのを
目撃しており(エニスハイムの雷石)、
このときの強烈な印象が、本作でも重要なエッセンスとして描き込まれています。
ちなみに当時、彗星は世界の滅びの予兆とされており、
終末論がそこかしこで囁かれていたのだとか。
黙示録の世界はまさに彼らの生活と隣り合わせだったわけですね。
次に、頬杖をつく天使の右上に架けられた4×4の升目。
これは魔方陣で、縦横斜め、いずれも合計が34になるように作られています。
ピタゴラス学派では34は不幸な数とされていますが、
一方で魔方陣には護符としての役割もあったみたい。
どっちにしても、いわくありげですね。
よく見ると、最下段の左から2番目と3番目、続けて読むと「1514」。
意識して埋め込んだのかどうなのか。
こんな感じで細部を追いかけて行くときりがないので、
肝心のメランコリーを象徴する天使へ。
右手に持っているのはコンパスで、
その先に目をやると先ほど取り上げた彗星が。
コンパスが天文学を象徴するアイテムであることを考えると、
なんとも示唆的です。
そして左手で頬杖をつき、目を伏せて溜め息を……ということにはならないんですね。
この力強いまなざしといったら!
熱心に手元の板に何かを書き込むキューピッドや
物憂げに横たわる犬と比べて、
この天使の視線はあまりにも強い意志に満ちており、
それがまた、この作品の謎を深めているわけです。
視線の先にはやっぱり彗星がありますが、
さりとて世の終わりをはかなんでいるようにも見えないし。
立てかけられた梯子の先には何があるのか、それも気になるところです。
そもそも何をもってメランコリー(憂鬱)なのか。
世界の滅びに立会う憂鬱なのか、
それとも世界を滅ぼす神々の憂鬱なのか。。。
謎は深まるばかりです。
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