受胎告知(大原美術館特集 3)
岡山に行ったら、ぜひ見ておきたい一枚。
エル・グレコの「受胎告知」です。
これを見られただけでも、今回の旅は大正解だったかなぁと。
Annunciation(1590-1603)
El Greco
よく言われることですが、
エル・グレコの宗教画って
独特のねじれや色使いがちょっと気持ち悪いんですよね。
歪んだ鏡に映った世界のような、そんな雰囲気で。
「トレド眺望」なんて、極端にもほどがある。
ただ、それがエル・グレコが唯一無二の画家である所以なわけですが。
ところがですね、「受胎告知」の実物を前にしたら、
そんなイメージはあっさり覆されてしまったんです。
確かにねじれた世界ではあるんだけど、
奇妙な感じはまったくしなくて、何かすっと腑に落ちる感じ。
そのとき感じたのは体が上に持ち上げられるような、浮遊感といいますか。
これこそがこの絵の持つ魅力であり、魔力なのかと実感しました。
View of Toledo(1596-1600)
El Greco
まず目に飛び込んでくるのは、画面左のマリアの顔。
彼女の視線の先には、右手を天に向けた大天使ガブリエル。
二人の間には翼を広げた鳩が舞っており、
鳩の背後には稲光のような閃光が天地を貫いています。
下方から天に向かって収縮していくような、不思議な光。
これも浮遊感の正体のひとつなんでしょうか。
ちょっと遠ざかってもう一度見てみると、
鳩がどうやら「受胎告知」の重心のように感じられてきます。
マリアの足元、籠からはみ出た衣服を始点として、
逆S字を描いて力が上に向かって行くイメージですね。
その通過点であり、逆S字のねじれの部分に鳩がいると。
燃え立つ炎のような、大いなるねじれによるダイナミズムも
浮遊感を生み出す力の源なんだと思います。
ちなみにブダペスト西洋美術館には構図がほとんど同じ作品がありますが、
インパクトとしてはやっぱり大原美術館所蔵のほうが上かなぁ。
Annunciation(1600-1610)
El Greco
エル・グレコはフェルメールなどと同じく
一時期その名を忘れ去られ、
近世になって再発見された画家。
1922年、パリの画廊で売りに出されていた「受胎告知」に惹かれたのは、
先日紹介した児島虎次郎でした。
手持ちの資金がなかった児島は、
彼に出資していた大原孫三郎に送金を依頼します。
その時の児島の手紙の文面が、
「グレコ買いたし、ご検討のほどを」。
そして大原孫三郎の返事は
「グレコ買え、金送る」。
児島虎次郎の鑑識眼と行動力、
大原孫三郎の決断力と先見の明があってこその奇跡。
そして「受胎告知」は倉敷へと運ばれ、
現在大原美術館にて、多くの鑑賞者を魅了しています。
この1枚のために1つの部屋が用意されており、
心行くまで名画を堪能できるわけです。
ちなみに日本にはもう1点、国立西洋美術館にグレコの作品が展示されています。
「十字架のキリスト」という作品で、
常設展で現在展示されているので関東在住の方は要チェックです。
Christ on the Cross
El Greco
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