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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

ジャン=レオン・ジェローム「ピュグマリオンとガラテア」

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男は全裸の女性の腰に手をまわし、
強く抱きしめながら口づけを交わす・・・。
思わず赤面して顔を覆ってしまいそうな絵ですが、
よく見るとおかしなことに気づきます。


女性の足。
足先に向かうに従って、色は白く、無機質に変質していきます。
いや、この絵で描かれているのはその真逆。
象牙で創られた裸婦像が命を与えられ、
徐々に生身の肉体に生まれ変わる瞬間なのです。


ピュグマリオンとガラテア



キプロス島の王、ピュグマリオンは現実の女性を愛することができず、
理想の女性像を象牙で彫り、創り出します。
そのあまりの美しさに、彼は恋心を抱き、ヴィーナス神に祈りますが・・・。


本作はフランスの画家ジャン=レオン・ジェローム
1890年発表の作品、「ピュグマリオンとガラテア」。
ピュグマリオンの願いがヴィーナス神に届き、
彫刻に命が宿った瞬間を描いたものです。
口づけを交わすことによって、彫像は覚醒したのだとか。


それにしても、この艶かしさといったら。
さっきまで動かぬ彫刻だったとは思えないほど、
その上半身は柔らかく熱を伴っており、
何より王の首にまわした右腕と、
肩から上に持ち上げ、くの字を描いて王の手を取る左腕のシルエットが、
権力者の愛を我がものにした自信のあらわれのようにも感じられます。
右上ではクピドが矢を引き絞り、
次の瞬間に王が永遠の恋に落ちることを暗示しています。


ピュグマリオンの姿勢にも注目です。
かかとを浮かせ、背伸びをして
必死に彫像にしがみついているようでもあり、
その反面、わずかに見える表情はどこか恍惚でもあり、
待ち望んだ奇跡に、そして彫像の魔力に見入られてしまったかのようです。
この瞬間、一国(島)の王とその所有物だった彫像の力関係が
逆転してしまったのかもしれません。
恋って恐ろしい。


ところで作者のジェロームは、ほかにも同じテーマの絵を残しています。
それがこちら。題名も同じく、「ピュグマリオンとガラテア」です。

ピュグマリオンとガラテア



見なきゃよかった、そう思った人も多いのでは?
まったく逆の構図から描いたこちらの作品では、
王の腰がちょっと引けているようにも感じられますし、
何より2人の間の緊張感が感じられません。
彫像の女性が前を向いてしまったことで、
絵画の魔力が弱まってしまったのかもしれません。
絵画は謎をはらんでいるからこそ、見る者を楽しませるということでしょう。



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