ジェローム「アレオパゴス会議でのフリュネー」
古代ローマの奴隷市場では、女性たちが売買されていました。
彼女たちを待ち受ける運命とは・・・
多くの人が想像するようなことが、行われていたわけです。
性の対象として、男たちの欲望を満たすために売買された女性たち。
ですが、なかには当時の知識階級に属する男もいて、
そうした男の相手をすることで知識を身につけ、
ウィットに富んだ会話で高級娼婦としてのし上がっていった女性も。
プリティ・ウーマンをイメージしていただければ分かりやすいかもしれません。
そして王侯貴族をもしのぐ富を手に入れ、
歴史に名を残したのがフリュネーという女性です。
この絵はジャン=レオン・ジェロームの
「アレオパゴス会議でのフリュネー」という作品。
前回紹介した「ローマの奴隷市場」に似た構図ですが、
シチュエーションはまったく異なります。
ここで描かれるフリュネーは、売られて行く存在ではなく
売られた後に富を手に入れて以降の姿。
高級娼婦フリュネーの相手は、彫刻家のプラクシテレスなど。
彼は史上初めて、等身大の女性の裸体像を創った彫刻家として知られています。
そのモデルを務めたのがフリュネーでした。
顔が黄色かったため、「フリュネ(ひきがえる)」と呼ばれたものの、
その美しさによって自由に交渉相手への請求額を決めており、
巨額の富を得るにいたったとか。
しかしある日、彼女は「エレウシスの秘儀」を
冒涜したと訴えられてしまいます。
「エレウシスの秘儀」とは、人間を神と成し、不死とする秘儀。
彼女はアレオパゴス会議と呼ばれる裁判に引き立てられ、
そのとき弁護をつとめたのがフリュネーの愛人の一人、
ヒュペレイデスでした。
ジェロームの作品では、フリュネーの左に立つ青い衣服の男です。
しかし「アレオパゴス会議でのフリュネー」を見ると、
とてもヒュペレイデスがフリュネーを弁護している雰囲気ではないですよね。
フリュネーの衣服をはぎとり、裁判官たちに見せつける様は
奴隷市場で男たちに女性を値踏みさせるシーンを連想させます。
なぜヒュペレイデスはこんなことをしたのか・・・?
ソクラテスやプラトンの弟子だった彼の弁舌をもってしても、
裁判官たちを説得させることはできず、
苦肉の策としてフリュネーの美貌を見せつけることで、
裁判官たちの考えを覆そうとしたのです。
いわく、「これほどの美に罪はあろうか」。
すごいセリフですが、実際にこれで無罪になってしまうからもっとすごい。
男ってやつは・・・。
いや、男が馬鹿なのではなく(馬鹿だったんだろうけど)
フリュネーが美しすぎたというのが真相でしょう。
古来、女性の美しさに惑わされて身を滅ぼした男は数え上げたらきりがありません。
結論としては
美しい女性は強く、男の大半はやっぱり馬鹿だということでしょうか。
ぽちっとお願いします!
- 関連記事
-
- ジェローム「蛇使いの少年」(クラーク・コレクションより)
- ジェローム「二つの威厳」
- ジェローム「アレオパゴス会議でのフリュネー」
- ジェローム「ローマの奴隷市場」
- ジャン=レオン・ジェローム「ピュグマリオンとガラテア」