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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

ワッツ「希望」

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あまりにも深い悲しみと、愁いを感じさせる作品です。
ラファエル前派、ジョージ・フレデリック・ワッツの代表作「希望」。
本当に、これを「希望」と呼んでいいものなのか・・・。


希望
Hope
George Frederic Watts



背景には重く沈んだ青。
球体の上に身を置く女性は怪我で視力を失ったのか、包帯で目を覆っています。
そして彼女が手にする竪琴は、弦のほとんどが切れてしまい
わずかに残った一本の弦に
祈るように耳を押し付けています。
弦のわずかな震えをも、逃すまいとするかのように。


彼女が腰掛ける球体は、星でしょうか。
星?


竪琴、女性、星、そして目。
これらのキーワードから、ある有名な神話を思い出すのは僕だけでしょうか。
そう、オルフェウスとエウリュディケの物語です。


竪琴の名手、オルフェウスは、ある日妻のエウリュディケを
毒蛇の牙によって失ってしまいます。
彼は最愛の妻を取り戻すため、黄泉の国、ハデスのもとへ。
オルフェウスの琴の音色に心を揺り動かされた
ハデスの妃、ペルセポネの説得もあって、
ハデスは「冥界から抜け出すまで、後ろを振り返ってはならぬ」
という条件のもと、オルフェウスの願いを聞き入れます。
しかし。
もう少しで地上というところで、
オルフェウスは不安に駆られ、エウリュディケの姿を見ようと振り返ってしまいます。
それが2人の、永遠の別れとなったのでした。


と、ここまでがよく知られているオルフェウスの物語。
実は続きがあるのです。
エウリュディケを失ったオルフェウスは絶望し、
女性を避けて生きるようになります。
このことに怒ったバッカスの巫女たちは、
オルフェウスを八つ裂きにしてしまうのです。
彼の竪琴はゼウスによって天へ、琴座として輝き続けることになります。


これがオルフェウス神話の大まかなストーリーです。
ここでもう一度、ワッツの「希望」に戻りましょう。
女性の顔を覆う包帯は、
「見てはならぬ」のエピソードを暗示しているようでもあります。
あるいは、オルフェウスを待ち続ける
エウリュディケの盲目の愛を表しているのでしょうか。
彼女の魂は竪琴と共に天にのぼり、
オルフェウスの魂を待ち続けているのかもしれません。
壊れかけた竪琴を愛おしそうに抱きしめ、
わずかに残る弦の震えに耳を傾け、かつての思い出に浸って・・・。
だからこそ、絶望ではなく「希望」なのでは。
あまりにも悲しく、そして切ない希望です。


ちなみにワッツは「オルフェウスとエウリュディケ」という作品も発表してます。
エウリュディケが毒蛇に噛まれた瞬間か、
それともオルフェウスが「見てはならぬ」の掟を破ってしまった瞬間か、
いずれにしてもストレートすぎて、物足りない気もします。

オルフェウスとエウリュディケ



最後に補足になりますが、
神話には諸説あって、オルフェウスとエウリュディケの魂が
めでたく再会したというのもあるんですが
今回のは完全に僕の妄想です。
こうだったらいいな、くらいの。
でも、こういう見方をできるのも絵画の魅力ですし、
実際、神話に個人的な解釈を付け加えて、
新たなストーリーを生み出した画家もいるのです。
奇しくも同じオルフェウス神話を軸にした有名な一枚を、
次回紹介したいと思います。



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