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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

ロセッティ「ベアタ・ベアトリクス」

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ヘルマン・ヘッセの「デミアン」を読みました。
青年特有の病的な夢想と理想を描いた作品で、
第一次大戦の影響もあってか、
悪魔(デーモン)に由来するタイトルが示す通り
代表作「車輪の下」よりもさらに深く、
若者の暗部に迫った問題作。
この作品の中で、重要なファクターとして登場するのが
ラファエル前派によるベアトリーチェを描いた作品なんです。


ベアタ・ベアトリクス
Beata Beatrix(1864~70)
Dante Gabriel Rossetti




ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「ベアタ・ベアトリクス」。
「神曲」で有名な13~14世紀の詩人ダンテ・アリギエーリが恋した女性、
ベアトリーチェを描いた作品で、
ロセッティの名前はこの詩人から取られたものなんだとか。
ヘッセの「デミアン」では、ラファエル前派の作品について
以下のように記されています。


 「ダンテを読んだことはなかったが、
  自分のしまっていたイギリスの絵の複製によって
  ベアトリーチェのことを知っていた。
  それにはイギリスのラファエル前派の、
  手足の非常に長くすらりとした、
  顔が細長く、手や表情が神聖化された
  少女の像が描かれていた」



手足が長いって表現からすると別の作品かなぁとも思うんですが、
手や表情の神聖化っていうと、
やっぱりロセッティの「ベアタ・ベアトリクス」が思い浮かぶんですよね。
主人公のシンクレールは、
偶然公園で出会った女性に「ベアトリーチェ」という名前を付け、
会話をしたこともないその女性に畏敬と礼拝を願います。
しかしラファエル前派の「ベアトリーチェ」が
彼女にそれほど似ていないことにふと気づき、
それなら自分が……と慣れない絵筆を手に取るわけです。
そして出来上がった肖像画は、意外な人物に似ていた、と。
続きが気になる方は、ぜひ一度「デミアン」を読んでみてください。
「車輪の下」とセットで読むといいと思います。


さて、絵画に目を戻してみましょう。
画中の赤い鳥の頭部には光輪があり、天からの使者であることが分かります。
くちばしにくわえた花は、アヘンの元となるケシの花。
地上から天上へと導かれる、死の瞬間を描いた作品なのです。


ロセッティは最愛の妻の死を受けてこの作品を描いたんですが、
そもそもベアトリーチェは、ダンテの「神曲」において
天国に坐して主人公を助ける存在として描かれています。
ロセッティにとってベアトリーチェは
天上から救いの手を差し伸べる存在であり、
彼は亡くなった妻をベアトリーチェに重ね合わせたのでしょう。
そしてロセッティは心霊主義に心惹かれていくんですが、
ヘッセの「デミアン」においても、
心霊主義的な描写がたびたび出てくるんですよね。
まぁ、このへんのつながりは読者の深読みに過ぎないのかもしれないけれど。


それでは最後に、同作より印象に残った文章をいくつか。

 「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。
  卵は世界だ。
  生まれようと欲するものは、
  一つの世界を破壊しなければならない。
  鳥は神に向かって飛ぶ。
  神の名はアプラクサスという」

 「生まれることは常に困難です。
  鳥が卵から出るのにほねをおることはご承知でしょう。
  ふりかえってたずねてごらんなさい、
  自分の道はそれほど困難だったか、
  ただ困難なばかりだったか、
  同時に美しくはなかったか、
  自分はより美しい、よりらくな道を知っていただろうか、と」

 「人は自分の夢を見いださねばなりません。
  そうすれば道は容易になります。
  でも、たえず続く夢というものはありません。
  どんな夢でも新しい夢に代わられます。
  どんな夢でも固執しようとしてはなりません」





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