横山大観「霊峰夏不二」と宮本輝「三十光年の星たち」
横山大観、87歳のときの作品「霊峰夏不二」。
雲間からのぞく富士の山頂は、
日本画家としての境地を思わせます。
一歩一歩堅実に歩を進め、
ついには雲海をも見下ろすほどの高みへ。
Mt.Fuji in Summer(1955)
Yokoyama Taikan
宮本輝の新作「三十光年の星たち」を読んだのですが、
作中で横山大観に関する記述が出てきます。
「霊峰夏不二」など、歳を取れば取るほど凄みを増していく
大観の作品について語られたあと、
場面をうつしてこんな台詞が。
十年で、やっと階段の前に立てるんだ。
二十年でその階段の三分の一のところまでのぼれる。
三十年で階段をのぼり切る。
そして、いいか、のぼり切ったところから、
お前の人生の本当の勝負が始まるんだ。
その本当の勝負のための、これからの三十年間なんだ。
そのことを忘れるんじゃないぞ。
75歳の老人が、30歳の主人公に語った台詞。
ということは、30年後は60歳。
そこから人生の本当の勝負が始まる、ということです。
「三十年間を、きみはただまっしぐらに歩き通せるか」というメッセージを、
宮本輝は横山大観の作品を通して象徴的に伝えているんですね。
作中ではこんな文章も。深いです。
どの分野にも若くして天才と称される人がいる。
事実、それだけの才能を持って生まれた。
しかし、そのうちの何人が、才能をさらに磨いて大成できたか。
自らの才能を超えた大仕事を、
年齢とともに成し遂げて行く人間を天才というのだ。
僕は宮本輝の大ファンで、
毎年の読書初めと読書納めは宮本作品と決めてるくらいなんですが、
「三十光年の星たち」はここ数年の作品のなかでも
ずば抜けた傑作だと思います。
主人公は、京都に住む無職・30歳の男性。
恋人に逃げられ、借金を背負わされ、
その返済のために金貸しの老人の運転手を務めることになります。
京都から各地への旅のなかで、
老人の口からときに厳しく突き放すように、ときに優しく教え諭すように
人生というもの、人間の成長というものが語られるわけです。
そして、自分を磨くための2つの方法も。
これは作品を読んでのお楽しみということで。
ちょうど自分が31歳ということもあって、
台詞のひとつひとつが、心にじわじわ沁みてくるんです。
「十年一剣を磨く」という言葉もこの作品で知ったのですが、
これから人生の節目節目で、この言葉の意味を考えたいと思います。
自分はこれからの30年をどう生きて行くんだろう。
60歳になったとき、自分の過去を、そして将来をどう見つめるのだろう。
そんなことを考えながら、読み進めていきました。
30歳前後の人には、ぜひ読んでほしい作品です。
そして30年後に、もう一度読み返したい作品です。
最後に、蛇足となりますが
僕が勝手に選ぶ宮本作品ベスト3は……
1位 「夢見通りの人々」
2位 「泥の河/螢川」
3位 「錦繍」
2位・3位はベタですね。。
1位は主人公が好きなんです。他人事じゃないというか。。
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