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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

クノップフ「見捨てられた町」

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閉じられた扉、閉じられた窓。
重い霧に飲み込まれたような空。
音もなく、人の気配もないさびれた町を
少しずつ少しずつ、波が浸食していきます。
フェルナン・クノップフ「見捨てられた町」。
ベルギー象徴主義の画家が描いたのは、
みずからが幼少期を過ごしたブリュージュの町でした。


見捨てられた町
 Ville Abandonnée(1904)
 Fernand Khnopff




永井荷風は「海洋の旅」という作品のなかで、
この町のことを「廃市」と表現しています。
本作の発表から7年後のことで、
「廃市を流るる掘割の水とばかりを歌い得るようになりたい」と。
「悲しいロオダンバックのように」と。


ロオダンバック(ローデンバック)こそ、
クノップフが取り憑かれたように
ブリュージュの町を描き続ける契機となった人物。
彼はベルギー出身の詩人で、
「死都ブリュージュ」という作品を1892年に発表しています。
ローデンバックを敬愛していたクノップフは
雑誌に掲載されたこの作品に強く魅せられ、
書籍として上梓される際には
ローデンバック本人の依頼によって扉絵を手掛けています。


閉ざされた家々、臨終の時にかき乱された眼のような窓ガラス、
水面に縮緬じわの階段を映している切妻からは、死の感触が発散されていた



「死都ブリュージュ」では、クノップフの故郷がこのように描かれています。
クノップフのなかで、思い出の地は死都のイメージに置き換えられ、
ブリュージュを訪れたときは現実を直視しないですむよう、
暗い眼鏡をはずさなかったといいます。
そして――運河に囲まれた死都のイメージは、
1904年、代表作「見捨てられた町」として昇華するわけですね。




さて、今回クノップフの作品を紹介したのは
昨晩読んだ小川未明の童話「眠い町」が、
あまりにも「見捨てられた町」のようだったから。
それでは最後に、「眠い町」の一節を引用。


ある日、彼は不思議な町にきました。
この町は「眠い町」という名がついておりました。
見ると、なんとなく活気がない。
また音ひとつ聞こえてこない寂然とした町であります。
また建物といっては、いずれも古びていて、
壊れたところも修繕するではなく、
煙ひとつ上がっているのが見えません。
それは工場などがひとつもないからでありました。

町はだらだらとして、平地の上に横たわっているばかりであります。
しかるに、どうしてこの町を「眠い町」というかといいますと、
だれでもこの町を通ったものは、不思議なことには、
しぜんと体が疲れてきて眠くなるからでありました。
それで日に幾人となくこの町を通る旅人が、
みなこの町にきかかると、
急に体に疲れを覚えて眠くなりますので、
町はずれの木かげの下や、
もしくは町の中にある石の上に腰を下ろして、
しばらく休もうといたしまするうちに、
まるで深い深い穴の中にでも引き込まれるように眠くなって、
つい知らず知らず眠ってしまいます。



見捨てられた町、死の町、そして眠い町。
いずれにしても、僕は住みたくないなぁ。。。





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