ルノワール「ブージヴァルのダンス」と椿姫
幸福を絵に描いたような、ダンスに興じる男女の姿。
でもよく見ると女性は目を伏せて思わせぶりな表情で、
恋の駆け引きを楽しんでいるようにも見えます。
ルノワール「ブージヴァルのダンス」。
セーヌ川沿いの行楽地での一幕を描いた作品で
「都会のダンス」「田舎のダンス」と並ぶダンス3部作のひとつ。
昨年、国立新美術館のルノワール展でも展示されてましたね。
ところで、ブージヴァルを舞台にした悲恋の物語といえば……。
Dance at Bougival(1883)
Pierre-Augustê Renoir
パリの社交界で奔放な日々を送る美貌の娼婦マルグリットと、
彼女に惹かれていく青年アルマンの悲恋を描いた
デュマ・フィスの名作「椿姫」。
2人が結ばれ、共に過ごした場所がフランスのブージヴァルなのです。
アルマンの純粋な愛情にうたれ、
それまで知らなかった安息の日々を送るマルグリット。
「わたしは日がな一日恋人のそばで過ごしました。
ふたりは庭に面した窓をあけて、
咲きにおう花や木陰に嬉々としてたわむれる夏の光をながめながら、
マルグリットもわたしもまだ知らなかったほんとうの生活を、
たがいに肩をならべてしみじみと味わいました」
しかし、アルマンの父親の登場によって、2人の生活に破綻が生じます。
身を引く決意を固めるマルグリット、
彼女に裏切られたと思い込むアルマン。
やがてマルグリットは病に臥し、
そうとは知らずアルマンは彼女を追いつめます。
「あたしはもうあなたの幸福のお役にはたたないの。
でも、生きて息のできるあいだは、
あたしあなたの好き勝手になるわ。
夜でも昼でも、気がむいたら、いつでもいらしてちょうだい。
あなたの思い通りになるわ。
でももう、あなたとあたしの将来を、
一つに結びつけようなどとは考えないでね」
尊厳を踏みにじられてもなおアルマンを慕うマルグリットですが、
病は彼女の肉体と精神を蝕んでいきます。
「ああ! あたしの過去の生活!
あたしは今になって、その倍の償いをしているのです」
奔放な女性と純粋な青年、
そして父親によって引き裂かれる恋物語という設定は
ツルゲーネフの「初恋」にも通じるものがあります。
(父親の立ち位置は真逆ですが)。
どちらも歴史に残る傑作ですが、
「椿姫」のほうが優れている点があるとすれば、
ヒロインであるマルグリットの内面にも深く迫っているということでしょう。
この点に関しては、どうも作者の人生観が影響しているようです。
デュマ・フィスは「三銃士」などの作者アレクサンドル・デュマの息子。
私生児として生まれ、そのことを生涯引きずっていたそうです。
社会的弱者としてのマルグリットに、自身を重ね合わせたのかもしれません。
さて、最後にもう一度「ブージヴァルのダンス」について。
この作品でモデルを務めた女性の名はシュザンヌ・ヴァラドン。
画家として活動する一方で、ルノワールやロートレックなど
著名画家のモデルを務めていた女性です。
そして彼女が私生児として産み育てたのが、モーリス・ユトリロなんですね。
デュマ・フィスもユトリロも、私生児として生まれ、
親から芸術の才を受け継いだ点で共通しています。
芸術家の血がそうさせるのか、それともそういう時代だったのか。
やっぱり普通が一番……そんなふうに思ってしまいます。
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