ダ・ヴィンチ「アンギアリの戦い」(追記あり)
※当記事は2010年6月に書いたものですが、
その後の調査で進展があったそうでその旨を最後にまとめてあります。
結論からいうと、「見つからなかった」。
記事のご指摘および情報を提供してくださった方に感謝申し上げます。
イタリア・フィレンツェのベッキオ宮殿。
500人大広間に現存する、ヴァザーリのフレスコ画「ピサ攻略」。
1975年、その壁画の片隅に小さな書き込みが見つかりました。
「CERCA TROVA(探せ、さらば見つからん)」
そして、その存在が明らかになった伝説の壁画とは・・・。
Battaglia di Anghiari
ルネサンスの巨星、レオナルド・ダ・ヴィンチの「アンギアリの戦い」です。
フィレンツェ共和国軍がミラノ公国軍を破った戦いを描いたもので
宮殿改装の際に失われてしまったと言われていましたが、
実はヴァザーリの壁画の下に隠されていたのです。
ただし、だからといってヴァザーリの作品を犠牲にするわけにもいかず。
いまだ本物を拝むことはできないわけです。
(ちょっとだけ削り取ってみたそうですが)。
ということで、今回紹介するのはルーベンスの模写。
正確には、ロレンツォ・ザッキアが実物を模写したものを、
ルーベンスが模写したもの。
荒々しい息づかいと怒声、
今しも流血が見る側に飛び散ってきそうな、
圧倒的な迫力です。
注文主の要望は、フィレンツェ軍の偉大さを絵画によって知らしめること。
しかしダ・ヴィンチが描いたのは、戦争の悲惨さでした。
敵も味方もなく、そこにあるのは狂気だけ。
ダ・ヴィンチが絵筆をとったそのとき、
同じ注文主から相対する壁に描くことを依頼された、
もうひとりの画家がいました。
それがミケランジェロ・ブオナローティ。
彼が依頼されたテーマは、「カッシーナの戦い」。
「アンギアリの戦い」と同じように、
フィレンツェ軍がピサ軍に勝利した場面を題材にしたものでした。
当時53歳のダ・ヴィンチに対して、ミケランジェロは29歳。
かたや老齢に差しかかった画聖、かたや飛ぶ鳥落とす勢いの若き才能。
イタリアが誇る2人の天才による、世紀の対決の結末やいかに。
なんと2人とも、未完成のまま筆を置いてしまうんですね。
ミケランジェロは制作をすっぽかしてローマへ行ってしまい、
ダ・ヴィンチは独自の油性絵の具がうまく行かず、断念。
結果、半世紀近くも下絵のまま、
2つの絵がベッキオ宮殿の広間を飾ることになるのです。
そして登場するのが、ヴァザーリです。
500人広間の改装を命じられたヴァザーリは、
「アンギアリの戦い」のうえに「ピサ攻略」を、
「カッシーナの戦い」のうえに「シエナ攻略」を描き、
巨匠2人の作品に引導を渡すわけですが、そのときの心情はいかばかりか。
未完の作品とはいえ、画家にとっては美への冒涜、恐れ多かったんでしょうね。
しかも改装作業は、ヴァザーリだけでなく
彼が開校した美術学校の生徒たちとともに行われたそうで。
歴史的作品を葬るだけでなく、若い才能をつぶすことにもなりかねない行為。
その思いが、「CERCA TROVA(探せ、さらば見つからん)」という
書き込みに込められていたんじゃないでしょうか。
ちなみにヴァザーリは、画家としてよりも
「美術家列伝」という著書で有名だったりします。
フィレンツェ出身の芸術家たちの生涯と作品をまとめた伝記で、
美術史の古典として知られる作品なわけですが
実はこれ、事実をありのままに、というわけでもなくて
ヴァザーリの脚色がふんだんに施されているそうです。
稀代のストーリーテラーとして歴史に名を残した彼ですが、
1550年に発表した「美術家列伝」の10年後、
まさかダ・ヴィンチとミケランジェロの作品を
自身の手で封印することになろうとは・・・。
事実は小説より奇なり。
ヴァザーリのうめき声が聞こえてこそうです。
と、ここまでが2010年時点の記事です。
その後2012年3月に正式に発見された!とのニュースがあったのですが、
半年後にまさかの大どんでん返し。
結局壁画は存在しなかったらしく、調査は打ち切りになったとのことです。
打ち切りのニュースも日本では取り上げられなかったらしく、
なんともかんとも……。
自分はわりと乗せられやすいというか信じ込みやすいというか、
「アンギアリの戦い発見!」みたいなニュースがあると
「わーすごい!!」と単純に興奮してしまうわけですが、
この手のニュースには慎重にならないといかんなぁ、と思った次第です。
いや、ちょうど先日も
「ダ・ヴィンチの新たな作品発見か!?」みたいなニュースがありましたし。
その裏にもいろんな思惑があって、いろんな動きがあるんでしょうね。
……とは言いつつ、やっぱり興奮しちゃうんですけどね。
だって本当の本当だったら嬉しいじゃぁないですか。
「アンギアリの戦い」も、どこかでまた見つかればいいなぁって思います。
※当記事に関しては内容をごそっと入れ替えるか、削除するかなど考えましたが
これはこれで、そのまま残しておくべきだと判断しました。
アートに限ったことではありませんが、
報道のあり方やブログなどにおける伝聞のあり方について考える材料になると思うので。
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