ヘンリー・ダーガー「非現実の王国で」
約40年にわたり、誰に知られることなく
孤独な制作活動を続けたヘンリー・ダーガー。
彼が遺した1万5千ページにも及ぶ巨編「非現実の王国で」に迫る展示が、
ラフォーレミュージアム原宿で開催されています。
20世紀アメリカ美術における最大の謎とされるヘンリー・ダーガー。
彼には家族も友人もなく、病院の清掃人として働きながら、
夜になれば部屋にこもって、奇妙な叙事詩を紡ぎ続けました。
死後、ダーガーの下宿先の大家が発見したことで
はじめて人目に触れた「非現実の王国」。
その主人公はヴィヴィアン・ガールズと呼ばれる、7人の少女。
彼女たちは「アビエニア」と呼ばれるカソリック国家を率い、
子どもを奴隷として虐待する軍事国家「グランデリニア」と戦いを繰り広げます。
かわいらしい女の子たちの冒険活劇、というわけにはいかず、
思わず目を背けたくなるような凄惨な描写も多く、
描かれた少女たちもどこか性的衝動を思わせる部分があったりで……。
僕はなんだか、他人の頭の中を覗き見てしまったような、
夢の世界に土足で踏み込んでしまったような居心地の悪さを感じました。
言いようのないむずがゆさと背徳感を引きずりながら会場を巡るわけですが、
会場がまた、迷路みたいなんですよね。
両面に描かれた作品を効果的に展示するために
パーテーションで空間を分断するような形式を取っており、
それが一層、ダーガーの精神世界を体現しているようで
「非現実の世界」に迷い込んでしまったような錯覚に陥ってしまうんです。
妄想という極めてパーソナルな世界に無理矢理引きずり込まれ
それがまた見る側の精神をゆさゆさと揺さぶるわけですが、
ふと気が付くと「見ている」はずが
「見られている」気になってくるから不思議です。
ダーガーの作品は基本的に、
雑誌などのイラストをトレーシングペーパーで複製したり
切り貼りしたりで構築されていくそうで、
なるほど同じ顔の女の子が一枚の作品のなかで連続してたりするんですね。
はたまた、ある作品で印象に残ったポージングと表情が、
衣装を変えて別の作品に登場していたり。
それが微妙な既視感を生み出しつつ、
登場人物に追いかけられ、監視されているかのような
不安感が募って行くわけです。
自分の精神世界が、ダーガーに浸食されていくような。
ラフォーレミュージアム原宿の「ヘンリー・ダーガー展」は、
5月15日(日)までの開催。
最終日は18時まで、それ以外は20時までやっているんで、
仕事帰りにぜひぜひ。トラウマ残っても知りませんが(笑)。
あと、会場の一番最後の作品をよく見ると、
ディズニーランドの隠れミッキーならぬ隠れグーフィーが。
これから行く人は、ぜひこちらもチェックです。
公式サイトはこちらから。
それでは最後に、前回に引き続き
芦原すなおの「東京シック・ブルース」からの引用で締めたいと思います。
木漏れ日が暗い沼の表面に差して、きらきらと光る。
でも光るのは表面なんだ。
水の中は暗い。
1メートルも潜れば、もう光は差さない。
そして、その暗い水の中に、
どんなに驚くようなものや、
呆れ果てるようなものや、
信じられないくらいとんでもないものが潜んでいるか、
知れたものではない――
そう、僕は思っている。
ぽちっとお願いします♪
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