アール・ブリュット・ジャポネ展と高村智恵子
前回ヘンリー・ダーガー展を紹介しましたが、
これと合わせてぜひ見に行ってほしいのが
埼玉県立近代美術館の「アール・ブリュット・ジャポネ展」です。
アール・ブリュットは「生の芸術」という意味で、
英語ではアウトサイダー・アートと表現します。
正式な美術教育を受けず、発表することを目的とせず
独自に制作を続ける人たちの作品のことで、
孤独のなかで「非現実の王国で」を作り上げたヘンリー・ダーガーは
このアウトサイダー・アートの代表格。
「アール・ブリュット・ジャポネ展」は
日本人のアウトサイダー・アートを集めた展示で、
昨年春からパリで開催され、好評を博したそうです。
展示されている作品は……一言で表現するなら、自由。
自由すぎて玉石混淆なきらいもあるし、
好みが大きく分かれると思います。
それでも中には、胸ぐらをグワッとつかまれるような作品もあって。
ルオーのような宗教的な静けさや、
ゴヤのような深い闇を感じさせる作品も。
クレーのような無垢な抽象もあれば、
岡本太郎のような原始衝動、ピカソのような破壊も。
先人たちが試行錯誤の末にたどり着いた境地に、
一足飛びに手が届く人たちがいることに衝撃を受けました。
なかでも印象的だったのが、舛次崇さんの作品。
動物の形態の真っ黒な塊は、ACの過去のCM作品「黒い絵」を連想させます。
人間の深奥にある闇がそのまま現れ出たかのようでありながら、
じっと見つめているとどこか愛嬌が感じられてきて
作品の前から離れられなくなってしまうんですよね。
彼の作品はこちらのサイトで見ることができます。
さて、日本のアウトサイダー・アートといえば。
僕は高村智恵子が思い浮かびます。
詩人高村光太郎の妻で、
精神を病んで入院し、そこで千点以上もの紙絵を制作した人。
「東京に空が無い」と言った、あの人です。
もともとは女流画家として有名だったので
アウトサイダーと呼ぶのは不適当かもしれませんが、
入院後の彼女は、夫に見せるためだけに美しい紙絵を生み出すわけで。
「アール・ブリュット・ジャポネ展」に展示されていた作品群に
精神性が近い気がするんですよね。
それでは、最後に高村光太郎の「智恵子の半生」から引用を。
ただ此の病院生活の後半期は病状が割に平静を保持し、
精神は分裂しながらも手は曾(かつ)て油絵具で成し遂げ得なかつたものを
切紙によつて楽しく成就したかの観がある。
百を以て数へる枚数の彼女の作つた切紙絵は、
まつたく彼女のゆたかな詩であり、
生活記録であり、たのしい造型であり、
色階和音であり、ユウモアであり、
また微妙な愛憐(あゐれん)の情の訴でもある。
彼女は此所に実に健康に生きてゐる。
彼女はそれを訪問した私に見せるのが何よりもうれしさうであつた。
私がそれを見てゐる間、
彼女は如何にも幸福さうに微笑したり、
お辞儀したりしてゐた。
最後の日其を一まとめに自分で整理して置いたものを私に渡して、
荒い呼吸の中でかすかに笑ふ表情をした。
すつかり安心した顔であつた。
私の持参したレモンの香りで洗はれた彼女は
それから数時間のうちに極めて静かに此の世を去つた。
昭和十三年十月五日の夜であつた。
埼玉県立近代美術館の「アール・ブリュット・ジャポネ展」は、
ヘンリー・ダーガー展と同じく5月15日(日)まで。
サイトはこちらをご覧ください。
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