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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

ウォーターハウス「シャロットの姫」(1888年)

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前回に引き続き、ウォーターハウスです。
1888年発表の「シャロットの姫」。


シャロットの姫
The Lady of Shalott(1888)
John William Waterhouse




1870年ごろから活動を始めたウォーターハウスは、
イギリス・ヴィクトリア朝時代の画家のなかでもトップクラスの人気を誇ります。
また、1848年に同じくイギリスで結成され、象徴主義の先駆とされる
ラファエル前派の遺産を受け継ぐ画家と位置づけられています。
「シャロットの姫」はラファエル前派が「不朽の名声」リストに名を挙げた
ロマン派の詩人、テニスンの作品。そのストーリーは・・・


アーサー王の王宮があったキャメロット近くの島、
シャロット島に一人住む女性。
呪いをかけられた彼女は、直接外を見ることを許されず、
鏡に映った窓外の風景を見ることしかできません。
ゆえに外に出ることもできず、魔法の織布を折り続ける日々を過ごします。
そんなある日、鏡に映ったのはハンサムな騎士ランスロット。
その外見と歌声の美しさに惹かれたシャロットの姫は、
ついに外の世界を直接覗いてしまいます。
そして呪いが・・・。
織糸は体に絡み付き、鏡にはひびが入り、
それでもランスロットを追って舟に乗ったシャロットの姫。
しかし呪いは、彼女に死ぬまで歌い続けることを強要します。


ウォーターハウスが描いたのは、
舟に乗り、歌い疲れたシャロットの姫の姿でした。
みずからの運命に絶望し、泣きはらした赤い目。
テニスンの「シャロットの姫」は
家庭という呪縛から抜け出そうとして罰を受ける女性という、
当時の男性社会を象徴するような物語。現代女性が眉をひそめそうな。
テニスンにはそんな意図はなかったようですが・・・。
実際、ラファエル前派のホルマン・ハントの「シャロットの姫」
ウォーターハウスが後年描いた同題の作品では
どこか激しさを秘めた、“家庭におさまりきれない”シャロットの姫が描かれます。
しかし本作で描かれるのは、悲しい運命に翻弄される弱い女性の姿。

シャロットの姫
The Lady of Shalott
William Holman Hunt




「雪のように白い衣装」をまとい、「臨終の歌」を歌わされ、
眼前の死に嘆き悲しむしかないあわれな存在。
物語を知らなくとも、同情を禁じ得ない
心を揺り動かされる作品です。
また、ラファエル前派を代表する名作、
ジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」の
影響を受けていることも見てとれます。
全体の雰囲気はもちろん、川面に浮かぶ女性の姿、
左手前の葦などは「オフィーリア」の世界観そのものです。

オフィーリア
Ophelia
John Everett Millais




ウォーターハウスは自身の図録で、
この作品にテニスンの詩から以下の3行を引用しています。
「そして川面に薄闇の広がりて
豪胆なる予言者の夢うつつにあるに似て・・・
幅広き川の流れに運ばれてゆく」


運命の呪縛から逃れられず、川の流れに運ばれていくシャロットの姫。
舟の右側に視線を転じると、今にも燃え尽きそうなロウソクが目に入ります。
彼女の死を暗示するアイテムでもあるわけですが、
ここで重要なのはシャロットの姫が、
ロウソクを立てて祈りを捧げていたという事実のように思えます。
ウォーターハウスが描こうとしたのは、
家庭という束縛から逃れようとした女性への警告ではなく
ただただ敬虔で純潔な、うら若き乙女の姿だったのではないでしょうか。



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