足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

奥田元宋「奥入瀬(秋)」と、乙川優三郎「安穏河原」

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紅葉が燃える、秋の渓流。
まるで別世界にまよいこんだような美しさです。
奥田元宋「奥入瀬(秋)」。
以前ご紹介した「奥入瀬(春)」と対をなす、
清らかな瀬音が聞こえてきそうな一枚です。


奥田元宋「奥入瀬(秋)」
Oirase-Autumn(1983)
Okuda Genso




今日、乙川優三郎の「生きる」を読みました。
「生きる」「安穏河原」「早梅記」の3編からなる作品で、
第127回直木賞に選ばれた傑作です。


3編のなかで、特にぼくが心ひかれたのが「安穏河原」でした。
物語は、双枝という女性の回想から始まります。
幼いころに、父母に連れられて訪れた
雑木紅葉の下をはしる美しい河原。
「夢の中でしか見られない別世界に踏み込んだような」その河原を、
双枝は心のよりどころとして生きるようになります。


双枝の父は、一本気を絵に描いたような、厳しく清廉な武士。
かたくなさゆえに国を追われ、一家は食うにも困る生活を送るようになります。
やがて追いつめられた父・素平は、病に伏せた妻のために
双枝を女郎屋に売る決意をします。
素平は終生そのことを気に病み、
娘を救うためにみずからを犠牲にします。
娘は父母と見た河原の思い出を胸に、
身をひさぐ立場にありながら武家の誇りを貫こうとします。
そして、そんな2人の間を行き来するうちに、
人間らしさを取り戻していく織之助という青年。
この3人を軸に、物語は進んでいきます。


素平の生き方は矛盾に満ちているし、
双枝の生き方は痛ましいばかりです。
「厳格だが安穏な世界に生まれた女が
苦界へ身を落としながら少しも狂わないのは、
心の中に元の世界を持ち続けているからだろう」


ある日、双枝は忽然と姿を消してしまいます。
素平の遺志を胸に、双枝の行方をさがす織之助。
そして悲しくはかない、再会の場面。
「たったひとつの思い出を支えに、人間は生きてゆけるものだろうか」
その答えは……気になる方は、ぜひ本作を読んでみてください。
生きることの意味をかみしめてほしいと思います。


時は早瀬のようにかけぬけて、
思い出は放っておけば色あせてしまうけれど。
その人にとって何にも代え難い記憶であれば、
それは時を経るにつれて美しさを増し、あざやかに輝きます。
過去にすがるのは決して後ろ向きなことではないと、
思い出が未来を指し示す光となることもあるのだと、
ぼくはそんなふうに思いました。



歴史小説はあまり読まないほうで
乙川さんの作品もはじめて読んだのですが、
この1冊でファンになりました。
抒情豊かで、どこか控えめな筆致も、
人間のやさしさと弱さに寄り添うようなストーリーも、
なんだかぼくの性に合っている気がします。
しばらくこの人の作品を追いかけてみようかな。




今日も明日もがんばろう。
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