足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

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岸田劉生「道路と土手と塀」と、斎藤茂吉の一本道

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渋谷区代々木の坂道。
登りきった先には、どんな景色が見えるのでしょうか。
岸田劉生「道路と土手と塀(切通之写生)」。
「ぢかに自然の質量そのものにぶつかつてみたい」という思いで描かれた、
道のはしに茂る雑草や赤土の写実的な表現が光る風景画です。


岸田劉生「道路と土手と塀」
Road Cut through a Hill(1915)
Kishida Ryusei




岸田劉生がこの「道路と土手と塀」を描いたのは、1915年の秋。
作品について以下のように語っており、
画家自身にとっても重要な作品であったことがうかがえます。


その土や草は、どこ迄もしつかりと、ぢかに土そのものの美にふれてゐる。しかしどことなく、古典の感じを内容にも形式にも持つ。自分はこの画は、今日でも可なり好きである。一方その表現法がクラシツクの形式にまだ縛られてゐる処があるのを認めるけれど、あの道のはしの方の土の硬く強い感じと、そこからわり出して生へてゐる秋のくすんだ草の淋しい力とは或る処迄よく表現されてあると思ふ。


ところでこの2年前に、同じく代々木の一本道を芸術に昇華させた人物がいます。
写生・写実を旨としたアララギ派の歌人、斎藤茂吉です。


あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり


夕日を受けてあかあかと目にうつる、一本の道。
この道こそ、自分が命をかけて歩むべき道である。
茂吉はそんな思いを31文字に込めて詠みました。
恩師である伊藤左千夫や、母親の死。
愛した女性との切ない別れ。
雑誌「アララギ」の運営に関する、さまざまな問題。
これらの悩みを抱えながら、茂吉は一本道を歩み続ける決意をします。


茂吉が歩もうとした道が、劉生が描いたような坂道だったかは分かりませんが
少なくとも彼にとって、眼前の道ははるかに困難で、
それこそ命をかけるくらいの決意が必要だったのでしょう。
以下、茂吉自身の言葉を引用。


恐らく先生は僕らの事を、まだ遠いまだ遠いとおもひながら死んで行かれたことだらう。秋の一日代々木の原を見わたすと、遠く一ぽんの道が見えてゐる。赤い太陽が団々として転がると、一ぽん道を照りつけた。僕らは彼の一ぽん道を歩まねばならぬ。


「先生」とは、おそらく伊藤左千夫のことなのでしょう。
小説「野菊の墓」でも知られる歌人で
茂吉にとっては正岡子規の写実精神を橋渡しする恩師でありながら、
作歌上の意見の対立から仲違いしたまま、
伊藤左千夫は世を去ってしまいます。
偉大なる師を失い、悲嘆にくれる茂吉の前に広がる沈痛な風景。
芥川龍之介は、茂吉が詠んだ一本道の連作について
「ゴッホの太陽は幾たびか日本の画家のカンヴァスを照らした。しかし『一本道』の連作ほど、沈痛なる風景を照らしたことは必ずしも度たびはなかつたであらう」
と評しています。


さて。
岸田劉生は「道路と土手と塀」によって独自の写実様式を確立し、
日本を代表する洋画家としてあまたの作品を生み出しました。
斎藤茂吉もまた、処女歌集「赤光」や
一本道を含む歌集「あらたま」を発表し、
以後も旺盛な作歌活動を続け、険しい道を登り切りました。
それでは、一本道を激賞した芥川龍之介はどうであったか。
「僕の詩歌に対する眼は誰の世話になつたのでもない。斎藤茂吉にあけて貰つたのである」
と語り、茂吉を慕った芥川ですが……。
やがて芥川は、精神科医でもあった茂吉のもとに患者として通うようになり、
強度の神経症から睡眠薬を強く求めるようになります。
そして、「何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安」という言葉を残し、
みずからの命を絶ってしまうのです。


壁に来て草かげろふはすがり居り透きとほりたる羽のかなしさ


茂吉は芥川の死を悼んで、こんな歌を詠んでいます。
クサカゲロウの薄い羽は、坂道をのぼりきるには繊細すぎたのでしょうか。


なんだか寂しい感じになってきてしまいましたが。。。
ぼくも自分の一本道を、坂道を、しっかり歩まなければと思うわけです。
あいかわらず迷ったり後ろを向いたりでなかなか先に進まないけど、
時には立ち止まりながら、ちょっとずつでも歩いていこうと思います。
弱虫なんで、たまに空をあおいで涙ぐむこともあるけれど。
道の先にはきっと、かがやくものがあるはずと信じながら。
それでは最後にもうひとつ、茂吉の歌でしめくくりたいと思います。


かがやけるひとすぢの道遥けくてかうかうと風は吹きゆきにけり




今日も明日もがんばろう。
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-1 Comments

村石太B says..."絵画同好会(名前検討中 岸田劉生"
おもしろい風景ですね。構図が ゴッホ?かなぁ
写実的だけれど なんか おもしろいですね。
スーパーリアリズムかなぁ 魚眼かなぁ?
絵に詳しくない 私です。失礼致しました。
岸田リュウセイといえば あの少女の絵なのかなぁ?人物画というか 似顔絵かなぁ。人の人相は
善悪がでるのかなぁ。苦労がでるのかなぁ。どんな顔が 綺麗なのかなぁ?顔のバランス。
瞳に 関係するのかなぁ。オーラみたいなものもあるかなぁ?
2013.02.01 20:59 | URL | #4sW3RqXU [edit]

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