ユベール・ロベール「アルカディアの牧人たち」
あいにくの雨。
どこか出かけなきゃと思いながら、
向かったのは国立西洋美術館の「ユベール・ロベール展」でした。
薄い雨霧にけぶる町を歩いていると
いかにも「これから廃墟を見に行くんだ」という気持ちが高まってきまして。
天気がよかったら、きっとこうはいかなかっただろうな。
The Shepherds of Arcadia(1789)
Hubert Robert
こちらはユベール・ロベール「アルカディアの牧人たち」。
アルカディアはギリシャのペロポンネソス半島にある山がちな地方で、
牧人たちの楽園、理想郷とされています。
草を食む羊たち、美しい湖。
岩山の上にはさびれた神殿があり、
その右下には滝が轟々と流れ落ちて行きます。
そして画面左下、牧人たちが指差しているものは……。
この墓石に刻まれた文字こそ、
「アルカディアの牧人たち」の重要なテーマなわけです。
これより150年ほど前に同様の作品を描いた画家が
ニコラ・プッサンで、ロベールも彼の作品を知っていたようです。
プッサンの作品でも同じように牧人たちが墓石を指差しています。
そこにはラテン語で「Et in Arcadia ego」と刻まれており、
「私はアルカディアにもいる(いた)」という意味なのだとか。
「私」は「死」のことであり、
楽園にさえも死は存在する、といったメッセージなんです。
メメント・モリですね。
ロベールが描いた墓石にも同様のメッセージが刻まれていましたが、
微妙に文章が違っていました。
「ET EGO PATROL ARCADIA」だったような。。。
気になる方は、ぜひチェックしてみてくださいな。
有名な、プッサンのアルカディア。
ユベール・ロベールが「廃墟のロベール」と呼ばれ活躍したのは、
ポンペイの遺跡発掘などが行われ、
滅びゆくものに新たな命が吹き込まれた時代でした。
限りある人間の生に比べて、
太古の神殿や彫像は朽ち果てていきながらも
時代をこえてその姿をとどめます。
そこにロマンを感じるのは、昔も今も変わらないんでしょうね。
国立西洋美術館の「ユベール・ロベール ー時間の庭ー」では、
「アルカディアの牧人たち」のような大型の油彩画のほか、
サンギーヌというオレンジ色のチョークで描かれた素描も
たくさん展示されていました。
粗く描かれた古代の建物と変色した紙の雰囲気は
「廃墟」という響きにとてもマッチしていて、
そもそもロベールも200年以上も昔の人なんだよなぁ、
と思いながら鑑賞した次第です。
それから獄中でお皿に描いたという作品も3点あって、
こちらもサイズは小さいながら要チェックの品々です。
それでは最後に、こんな詩を。
亡びたる過去のすべてに
涙湧く。
城の塀乾きたり
風の吹く
草靡(なび)く
丘を越え、野を渉(わた)り
憩ひなき
白き天使のみえ来ずや
あはれわれ死なんと欲す、
あはれわれ生きむと欲す
あはれわれ、亡びたる過去のすべてに
涙湧く。
み空の方より、
風の吹く
(中原中也「心象」より)
今日も明日もがんばろう。
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