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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

ユベール・ロベール「ユピテル神殿、ナポリ近郊ポッツオーリ」

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朽ち果てた古代神殿。
風雨にさらされてところどころ崩れ落ち、
蔓草がむやみに生い茂り……
右手前の、一本だけ孤立した石柱が
時間というものの果てしなさを思わせます。
ユベール・ロベール「ユピテル神殿、ナポリ近郊ポッツオーリ」。
廃墟の画家の真骨頂です。


ユベール・ロベール「ユピテル神殿、ナポリ近郊ポッツオーリ」
A View of a Classical Temple, Possibly That of Jupiter Serapis at Pozzuoli near Naples(1761)
Hubert Robert




廃墟、石柱、建築というと、
ある詩人の名前が思い浮かびます。
昭和初期に作品を発表し、
若くして亡くなった夭逝の詩人、立原道造です。
まずはこちらの詩を。


私は石の柱……崩れた家の 台座を踏んで
自らの重みを ささへるきりの
私は一本の柱だ――乾いた……
風とも 鳥とも 花とも かかはりなく
私は 立つてゐる
自らのかげが地に
投げる時間に見入りながら
歴史もなく 悔いも 愛もなく
灰色のくらい景色のなかにひとりぼつちに
立つてゐるとき おもひはもう言葉にならない

花模様のついた会話と 幼い傷みと
よく笑つた歌ひ手と……それを ときどき おもひ出す
風のやうに 過ぎて行つた あれは
私の記憶だらうか また日々だらうか

私は おきわすれた ただ一本の柱だ
さうして 何の 廃墟に 名前なく
かうして 立つてゐる 私は 柱なのか
答へもなしに あらはに 外の光に?
嘗ての日よりも 踏みしめて
強く立たうとする私には ささへようとするなにがあるのか――
知らない……甘い夢の誘ひと潤沢な眠りに縁取られた薄明のほかは――

(立原道造「石柱の歌」)




詩人・立原道造は
もともとは天文学を志していましたが、
進路を変えて東大で建築学を専攻。
卒業論文「方法論」は
建築を時間や音楽性に結びつけ、
廃墟に建築の根源的な意味と意義を見いだそうとする試みでした。
建築は廃墟になった後のことまで想定して構築されなければならない
といったことも言っていたそうで、
詩人としてだけでなく建築家としても優秀だったようです。
ちなみに在学中には辰野金吾賞を3年連続で受賞。
辰野金吾は東京駅の設計者ですが、
この賞を3度受賞したのは立原道造ただ一人なんだとか。
卒業後は建築事務所に勤めていたりもするんですが……
たった24歳にして、病魔に蝕まれて世を去ってしまいます。


立原道造の詩の多くは
14行で構成されるソネットという形式をとっているんですが、
「石柱の歌」はそれを破っています。
特別な思いがあったのかどうなのか。
それにしても、このうら悲しさといったら……。


永遠のなかに置き忘れられた一本の石柱のように、
彼の詩はどこかさびしげで、でも強い存在感で胸に響きます。
彼がユベール・ロベールの作品を見たら、
どんな感想を抱いただろう。




今日も明日もがんばろう。
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