川合玉堂「朝もや」
春分を過ぎたというのに
今日はなんだか肌寒い一日でした。
もうじき4月だというのに。
Morning Mist(1938)
Kawai Gyokudo
こちらは川合玉堂の「朝もや」。
見事な枝ぶりの松の木が朝もやのなかに消えていき、
その向こうにはゆるやかな稜線が広がります。
朝早くから荷車を引く牛と人がいて、
歩みのさきに咲いているのは白梅でしょうか。
残雪にぬれた街道を踏みしめる音が聞こえてきそうです。
思い出したように訪れた冷気が土や水を凍らせ、
そのまま春の営みを止めてしまったかのよう。
春先に寒さが戻り、
一度は溶けた水辺に再びうすい氷が張ることがあり、
これを「うすらひ」といいます。
昨日からこの言葉が頭を離れなくて、
なんとなくこの絵を選びました。
「薄氷」と書いて、「うすらひ」。
なんてきれいな日本語だろうか。
「薄氷」と書くと「薄氷を踏む」のように危うさや冷たさが際立ちますが、
「うすらひ」は儚さのなかにも柔らかさがあって、
いずれは壊れてしまう一瞬の美しさが込められているような気がします。
「うつろひ(移ろい)」にも似て、
変わりゆくもののふとした表情をとらえたみたいで。
ごくたまに、こんなふうに一つの言葉が頭から離れなくなったり
そこからいろんな思いが広がって無性に感動してしまったり
日本語ってすてきだなと、そのたびに思う次第です。
今日も明日もがんばろう。
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