イヴ・タンギー「弧の増殖」
前回に引き続き、イヴ・タンギー。
あれから図録をパラパラと眺めてたんですが、
やっぱり描かれている物体は人間のように思えてきて。
人間でないにしても、何か命あるものだと思うのです。
「biomorph(生物的形態)」とも呼ばれているのだとか。
でも……
そうだとしたら、この作品はあまりに怖い。
Multiplication of the Arcs(1954)
Yves Tanguy
イヴ・タンギー「弧の増殖」。
無限に増え続け、ついに地平を覆い尽くしてしまった生物的形態。
近未来都市にも見えるし、瓦礫の山にも見えます。
空は灰色に淀んでおり、重苦しい緊張感が満ちています。
未来の童話のような、
人工的なのに安らぎのある世界観は完全に崩れてしまい
ここに広がるのは終末的な風景です。
増殖はやがて氾濫となり、崩壊を予感させる……。
「弧の増殖」を完成させた翌年、タンギーは脳卒中で世を去ります。
膨らみすぎた世界が、はじけて消えてしまったかのように。
重量のないピストルか
あなたの手は
けむりの尻尾は
尽きない会話のように
開花と死の危険を犯す
砂漠のあたま
空白は櫛目ただしく這う
晴雨計はまばたきもなく
夢を追った
放たれた小豚は
薔薇の耳をかしげながら
星のように消えた
あらゆる人たちは
あらゆる人たちを待つ
未知の
けれども見覚えある
無窮の将棋盤の上で
(瀧口修造「イヴ・タンギー」)
今日も明日もがんばろう。
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