ブリューゲル「激怒」(ブリューゲル版画の世界 その4)
曲がりなりにも平和な日本で
曲がりなりにも平和な毎日を享受している僕らにとって、
「7つの罪源」のなかでも実は一番この絵が怖いかもしれません。
ピーテル・ブリューゲルの「激怒」です。
Anger(1558)
Pieter Bruegel the Elder
下部の銘文は、
「激怒は顔を膨れ上がらせ、血管は血でどす黒くなる」
「激怒は口を腫れ上がらせ、感情を苛立たせ、精神を不調にし、血を黒く陰鬱にする」。
中央下部には武装した人間の姿。
その脇に従う熊は、「激怒」を象徴する動物です。
武器を手に争う人間と怪物たち。
巨大なナイフで切り刻まれる罪人や、
棍棒で打たれたり、釜茹でにされたり、串焼きにされたり・・・
ありとあらゆる暴力と狂気が画面を満たしています。
モノクロの世界なのに、鮮血と戦火の赤が浮かび上がってきそうな。
ところで、中央下部で剣を掲げて前進する人間の姿、
ブリューゲルファンならどこかで見たことがあるのでは?
「激怒」から4年後の1562年、
ブリューゲルは油彩画「悪女フリート」で
再び暴力にまみれた地獄絵図を描くのです。
Mad Meg(1562)
Pieter Bruegel the Elder
そしてその数年後・・・。
地獄絵図は現実のものとして、ネーデルラントを襲います。
66年には聖像破壊運動が頻発し、
スペインから派遣された軍隊による弾圧が始まります。
スペイン兵が到着する前に、既に10万人もの命が奪われ、
ここから暴動と殺戮はさらに加速し、
やがて恐怖政治体制が確立するのです。
人間とは、つくづく罪深い存在であると実感させられるとともに
自分自身もその罪深き一員であることを忘れてはいけないのだと思います。
「ブリューゲル版画の世界」は8月29日までの開催。
公式ホームページはこちらです。
ぽちっとお願いします!
![]() | ブリューゲル (ニューベーシック) (ニューベーシック・アート・シリーズ) (2002/12/19) ローズ=マリー・ハーゲン/ライナー・ハーゲン 商品詳細を見る |
- 関連記事