レーピン「皇女ソフィヤ」(レーピン展より)
訳も分からず土下座して謝罪してしまいそうな、
圧倒的な威圧感の女性。
左側には影に隠れて息を殺しているような従者がいて、
さらに窓の向こうには……吊るされた死体!!
どこにもぶつけようのない怒りが
この部屋中に充満しているようです。
イリヤ・レーピン「皇女ソフィヤ」。
レーピンがはじめてロシア史を描いた記念すべき作品であり、
中野京子さんの「怖い絵」シリーズでもおなじみの一枚です。
Princess Sofya(1879)
Ilya Repin
この作品は副題が非常に長くて、
「ノヴォデヴィチ修道院に幽閉されて1年後の
皇女ソフィヤ・アレクセエヴナ、
1698年に銃兵隊が処刑され、彼女の使用人が拷問されたとき」。
ただし正確には、幽閉から1年後ではなく9年後の場面だそうです。
ソフィヤを幽閉したのは異母弟のピョートル1世。
10歳という若さで即位したものの、
このときソフィヤが銃兵隊を扇動して
強引にもう一人の実弟イヴァン5世をツァーリに据えたことから、
2人の間の溝は一気に深まります。
ソフィヤは摂政としてロシアの実権を握り、
みずからが皇帝であるかのごとく振る舞うように。
やがて人心は成長したピョートル1世に傾いていき、
1689年、ソフィヤはノヴォデヴィチ女子修道院に幽閉されてしまうわけです。
(↑歴史苦手なので思いっきり端折ってます。。)
レーピンが描いたのはそれから9年後の場面。
銃兵隊の反乱が再発し、ピョートル1世から首謀者の疑いをかけられたソフィヤ。
結局証拠は見つからなかったものの、取り調べのために1500人が処刑され、
死体は幽閉されたソフィヤの部屋の窓の外に吊るされます。
なんともかんとも、凄まじい姉弟喧嘩。お、おそろしい。。
といった予備知識を持って、ドキドキしながら絵の前に立ったわけです。
ところがですね、予想してたほど怖くない。
上から見下ろされるような位置関係だったせいで
現実感が遠ざかってしまったのかもしれません。
何より、彼女の足を見るとどうもテーブルに寄りかかっているらしく、
憤怒の形相というよりは傲岸不遜な表情に思えてしまって。
負けを認めぬしたたかさのような、そんな雰囲気が漂っていました。
むしろ彼女の表情よりも、手首の深紅の刺繍のほうが……。
まるで血の色のようで生々しくて、背中がぶるっとしてしまいました。
結局ソフィヤは修道女にさせられ、
この6年後、失意のうちに没します。
レーピンはこの史実を描くために歴史資料を漁り、
修道院での暮らしやしきたり、幽閉の状況などを入念に調べ、
当時ソフィヤが着ていた衣装を自宅で再現するなど
徹底した事前準備を重ねたのだとか。
どうりでこの、一分の隙もないリアリティ。
ちょうど鑑賞者と目線が合うように展示してくれたら、
怖さも倍増だったかもしれないですね。
さて、せっかくなので次回以降も
しばらくレーピン展の作品を紹介したいと思います。
次回は、個人的に「皇女ソフィヤ」より怖いと感じた作品を。
お楽しみに〜
今日も明日もがんばろう。
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