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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

レーピン「ゴーゴリの『自殺』」(レーピン展より)

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暖炉の炎に照らし出された顔は醜くゆがみ、
かっと見開かれた瞳は中空をさまよっています。
左手に抱えた原稿は、小説「死せる魂」の第2部。
ロシアの文豪ゴーゴリの狂気を描いた
イリヤ・レーピン「ゴーゴリの『自殺』」。
Bunkamuraのレーピン展で、一番怖いと感じたのがこの作品でした。
個人的には「皇女ソフィヤ」よりこっちの方がよっぽど怖かった。


レーピン「ゴーゴリの『自殺』」
 “Suicide” of Nikolai V. Gogol(1909)
 Ilya Repin




ゴーゴリといえばロシアを代表する小説家であり、
ロシアきっての変人とも称された人物。
わざと靴を左右反対に履いて歩いたり、
小説の登場人物も俗悪であったりグロテスクであったり。
そんな彼がダンテの「神曲」を意識して取り組んだ大作が「死せる魂」。
主人公の詐欺師チチコフが、戸籍上は既に死んでいることになっている農奴、
つまり死せる魂をロシア全土から集めてまわるという物語です。
第2部では「理想的な人間」を、第3部では「善」を書こうと試みたものの、
執筆は遅々として進まず(人間の醜悪さばかり書き続けたせいか?)、
ようやく第2部を書き上げたものの、唯一原稿に目をとおした司祭から
内容を否定され、破棄するように言い渡されます。


そして錯乱、発狂。
召使いの制止に耳を貸すこともなく、
炎に身を投げ入れんばかりの勢いで原稿を燃やす
文豪のあわれな末路を、レーピンは容赦なく描いています。
業火のような暖炉の赤い光に対して、
窓からは蒼白い月光が、そして画面左上にも青い光が灯っています。
この対比がまた冷徹で、闇に飲み込まれてしまいそうな
作家の苦悶の姿がただただ恐ろしい。


何がここまでゴーゴリを追いつめたのでしょう。
理想を描けなかったことへのジレンマが、燻っていた苛立が、
司祭の否定的な言葉で爆発してしまったのでしょうか。
う〜む、狂気ほど怖いものはないですよね。
そこに救いはないだろうから……。
この10日後に、ゴーゴリは亡くなったのだとか。
天才と狂気は紙一重なんて言いますけど、
トルストイの肖像画と比べるとあまりにも。。ねぇ。




今日も明日もがんばろう。
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