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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

レーピン「浅瀬を渡る船曵き」(レーピン展より)

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せっかくBunkamuraのレーピン展に行ってきたのに、
この作品を紹介するのをすっかり忘れていました。
イリヤ・レーピン「浅瀬を渡る船曵き」。
代表作「ヴォルガの船曵き」の制作過程で描かれた重要作品です。


レーピン「浅瀬を渡る船曵き」
 Barge Haulers Crossing a Ford(1872)
 Ilya Repin




レーピンは代表作「ヴォルガの船曵き」を描くにあたり
1870年夏の3ヶ月をヴォルガ河畔で過ごし、
労働者階級の最底辺の人々と身近に接したといいます。
「ロシアの農夫をありのままに描き出せるのはレーピンをおいて他にない」
と述べたのは、同時代のロシアを代表する画家クラムスコイ。
思想だけでなく、物理的にも虐げられし人々に寄り添ったレーピンだからこそ
重々しいリアリティを伴う作品を描けたのかもしれません。


レーピン「ヴォルガの船曵き」
 レーピンの代表作「ヴォルガの船曵き」。国立ロシア美術館所蔵なので、今回は出品せず。。



とはいえ、レーピン自身は「ヴォルガの船曵き」のできばえに満足できず、
同じテーマでありながら構想も構成も異なる「浅瀬を渡る船曵き」を描きます。
「ヴォルガの船曵き」では黄金色の背景のなかで
左方向に向かって船を曵く人夫たちが描かれています。
パイプをくわえているものもいれば、明らかに力を抜いているものもいて、
労働の中にも楽しさを見いだすしたたかさや、
諦念と隣り合わせの強さが見てとれます。
一方の「浅瀬を渡る船曵き」では……。
人夫たちは画面奥の水平線から徐々に手前に歩み寄ってきます。
全体的に暗い色彩のなかで、労働者達の姿はまるで黒雲のようにおどろおどろしい。
レーピン自身が「黒い染み」にたとえたのも納得です。
そこに明るい要素などみじんも存在せず、
ぼろをまとった悲しさが、骨身がきしむような苦しさが、
そして終わりが見えない重労働への怒りが充満しているようです。


レーピンにとって、どちらの船曵きが真実だったのか。
おそらくどちらも、レーピンが見た偽りのない光景なのでしょうし、
どちらも船曵きたちが抱えていた偽りのない感情なのでしょう。
苦難をそのまま受止めて顔をしかめることもあれば、
そこから目をそらしてささやかな快楽に身を任せることもある。
そのどちらをも描かずにいられなかったのが、
画家の業であり執念なのだと思います。


全然はなしは変わるけど…。
もしかしたら、もしかしたらと思いながら
そんなわけないだろうとため息をついてます。
ほんとに馬鹿な自分で嫌になるな。





今日も明日もがんばろう。
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