内田麟太郎・いせひでこ「はくちょう」
「はくちょう」という絵本を読みました。
文:内田麟太郎、絵:いせひでこ。
「はくちょう」に恋をしてしまった、「いけ」の物語です。
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きつねに羽を傷つけられて、
仲間と一緒に飛び立てなかった一羽の「はくちょう」。
傷を癒すために、湖よりもあたたかい「いけ」で体を休めます。
「いけ」はそんな「はくちょう」に恋をしてしまうのですが、
声を出すこともできず、涙を流しても水に溶けいってしまう。
やがて「はくちょう」の傷は癒えて、旅立ちのときがきます。
やっぱり「いけ」は何も言えず、
遠く消えていく「はくちょう」の後ろ姿を見守ることしかできません。
見開き全体を使って、青のなかを飛んでいく
孤独な「はくちょう」が美しく描かれます。
ちょうどこのとき若山牧水の歌集も読んでいて、
「白鳥は哀しからずや海の青空のあをにも染まずただよふ」
という歌が思い浮かびました。
悲しいのは「はくちょう」だけでなく、それを見守る海や空も悲しい。
そして「いけ」も悲しいのです。
でも、ちゃんと最後に救いが用意されていました。
勇気を振り絞った「いけ」に、奇跡が起こるのです。
あぁ、よかった……。
「わが行くは海のなぎさの一すぢの白き道なり限りを知らず」
これも牧水の歌ですが、「いけ」はこんな気持ちだったのかなぁ。
若山牧水のことについても触れておきましょう。
旅を愛し、海を愛し、そして酒を愛した漂泊の歌人。
北原白秋と同じ年に同じ九州地方で生まれ、
大学でも同級生だったそうです(ぼくの先輩にあたります)。
牧水は医者の息子、白秋は酒造の息子ということで
どちらも満たされた幼少期を過ごしますが、
のちに家運が傾き、貧困生活を送るという点でも共通しています。
そして身を焦がすようなかなわぬ恋をしたという点も。
それぞれ石川啄木とも交流がありましたが(啄木のほうが一歳年長)、
3人のなかでは牧水がいちばん素朴で親しみやすく、素直な歌という印象です。
それでは最後にいくつか、牧水の歌を。
黒髪のそのひとすぢのこひしさの胸にながれて尽きむともせず
とこしへにけふのいのちの花やかさかなしさを君忘るゝなかれ
ひさしくも見ざりしごときおもひしてけふあふぐ月の澄めるいろかも
酒に代ふるいのちもなしと泣き笑ふこのゑひどれを酔はせざらめや
いつしかに月のひかりのさしてをるさびしきわれの姿なるかも
咲き盛る芍薬の花はみながらに日に向ひ咲けり花の明るさ
今日も明日もがんばろう。



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