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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

ブリューゲル「嫉妬」(ブリューゲル版画の世界 その6)

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ピーテル・ブリューゲルの「7つの罪源」シリーズのなかでは、
この作品が一番難しいかもしれません。
5番目に紹介するのは、「嫉妬」です。


嫉妬
Envy(1558)
Pieter Bruegel the Elder




下部の銘文は、
「嫉妬は恐るべき怪物であり、獰猛な疫病である」
「死ぬことのない死とは嫉妬であり、残酷な疫病であり、誤った苦悩から自分自身を食らう獣である」。
画面中央下部の人物は、右手で心臓を食べており、
これが嫉妬を表す行為だとか。
その右にいる七面鳥も嫉妬を象徴する動物だそうです。
ちなみに「7つの罪源シリーズ」は必ず画面下部に
罪源を象徴する擬人像と動物が配置され、
その下に罪源名が記されます。
「嫉妬」の場合は「INVIDIA」とラテン語で記されてますね。


さて、絵の細部に目をうつすと・・・
手前で骨を奪い合う2匹の犬。
実はこれ、ヒエロニムス・ボスの大作「7つの大罪と四終」でも
嫉妬を表す表現として描かれているんです。
なんでも、フランドルの諺「1本の骨に犬2匹」に基づくものだとか。

7つの大罪
The Seven Deadly Sins and the Four Last Things(part,1475-80)
Hieronymus Bosch




よーく目を凝らすと、画面のいたるところに靴が描かれています。
これも嫉妬を暗示するキーアイテム。
「ブーツを履く人、短靴の人知らず」という諺があり、
ブーツを履けるような身分の高いものは、
短い靴しか履けない人々のことを知ろうとしないという意味。
これが転じて、短靴からブーツへの羨み、という形で表されているようです。


それにしても、骨といい靴といい、
このくらいだったら別にいいんじゃない?と思ってしまいます。
現代人の我々の感覚からすると、嫉妬ってもっとどす黒いものな気が。
実はもともと、7つの罪源という考え方に「嫉妬」は含まれていなかったんです。
それどころか最初は7つではなく
「暴食」「色欲」「強欲」「憂鬱」「憤怒」「怠惰」「虚飾」「傲慢」の8つで
「枢要罪」と呼ばれていたそうです。
これが6世紀後半に整理され、「虚飾」と「傲慢」、「怠惰」と「憂鬱」を
それぞれ1つにまとめ、「嫉妬」を追加して「7つの罪源」になったとか。


そもそも「嫉妬」という概念は、
モノにあふれ、情報にあふれ、
そして欲望にまみれた社会だからこそ
成り立つ考え方なのかもしれません。
ブリューゲルが描いた当時の農村の人々は
嫉妬を抱く対象自体があまりなかったのかも・・・。
そう考えると、当時の嫉妬と現代の嫉妬にギャップを感じるのは
至極当然のことなんでしょうね。


「ブリューゲル版画の世界」は8月29日までの開催。
公式ホームページはこちらです。



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