速水御舟「芙蓉」
会社の近くでは、今年も芙蓉が花をつけています。
草むらには昼顔が咲き、百日紅が雨に濡れてしょげかえり、
足もとでは月草が藍をしのばせている。
やがて夏の花は枯れて、すっかり秋になってしまうんでしょうね。
なんだか淋しい気もするけれど、
こうして季節がめぐっていくんだなぁ。
Hibiscus mutabilis
Hayami Gyoshu
秋らしい風の吹く日
柿の木のかげのする庭にむかひ
水のやうに澄んだそらを眺め
わたしは机にむかふ
そして時時たのしく庭を眺め
しほれたあさがほを眺め
立派な芙蓉の花を讃めたたへ
しづかに君を待つ気がする
うつくしい微笑をたたへた
鳩のような君を待つのだ
柿の木のかげは移つて
しつとりした日ぐれになる
自分は灯をつけて また机に向ふ
夜はいく晩となく
まことにかうかうたる月夜である
おれはこの庭を玉のやうに掃ききよめ
玉のやうな花を愛し
ちひさな笛のやうなむしをたたへ
歩いては考へ
考へてはそらを眺め
そしてまた一つの塵をも残さず
おお 掃ききよめ
きよい孤独の中に住んで
永遠にやつて来ない君を待つ
うれしさうに
姿は寂しく
身と心とにしみこんで
けふも君をまちまうけてゐるのだ
ああ それをくりかへす終生に
いつかはしらず祝福あれ
いつかはしらずまことの恵あれ
まことの人のおとづれあれ
(室生犀星「永遠にやって来ない女性」)
今日も明日もがんばろう。
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