葛飾応為「吉原格子先の図」
格子の内には艶やかな遊女たちが座り、
格子の外にはそれを覗き込む数多の影。
まるで西洋絵画のような遠近法と明暗表現ですね。
「吉原格子先の図」というこの作品を描いたのは
稀代の絵師、葛飾北斎……
ではなくて、その娘の葛飾応為なのです。
葛飾応為は19世紀江戸時代後期の浮世絵師。
北斎の三女で、本名を栄(えい)といいます。
北斎が「オーイ、オーイ」と呼んだことから
応為と名乗るようになった、なんて説もあるようで。
また、器量が悪くあごが出ていたため、
北斎に「アゴ」と呼ばれていたなんて話も。
けれど腕は確かで、「美人画にかけては応為にはかなわない」と
北斎自身が言い残しているのだとか。
さて、この応為を主人公とした漫画が杉浦日向子の「百日紅」。
葛飾北斎、その娘のお栄(応為)、
それから北斎の弟子で居候の善次郎(後の渓斎英泉)を中心に、
当時の風俗がコミカルに描かれています。
ときには魑魅魍魎が跋扈するようなお話もあるのですが
それもこの時代の、しかも北斎親子なら
あり得ない話でもないな、と思えるから不思議です。
左から北斎、お栄(応為)、善次郎(英泉)。
ここで描かれるお栄(応為)は、
北斎が気の進まない仕事を代わりにこなし、
地獄絵図を描けば絵の中から鬼が飛び出し、
美人画を描けばその世界に持ち主が吸い込まれる
というくらいの画才の持ち主。
とはいえ、北斎に言わせれば「まだまだ」らしく(笑)。
そして何より、このお栄(応為)というキャラクターがかっこいいんです。
ぶっきらぼうで冷めた表情で、名を売ることにもまったく興味がない。
火事見物が何より好きで片方だけ下駄をつっかけて走り回ったり、
男性経験がないため春画がうまく描けずに思い悩んだりと
「百日紅」にはそんなエピソードがふんだんに盛り込まれています。
もちろん、北斎の奇想天外っぷりも見どころです。
それでは最後に、お栄と北斎の会話を。
「おれで良けりゃ描いてもいいよ
なんなら北斎と名入れしようか」
「うむそれがいい
こいつぁ顔に似合わず上手いぜ
そこいらの奴に見分けはつくめえ」
今日も明日もがんばろう。
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