川村清雄「建国」(川村清雄展より)
「和魂洋才」という言葉があります。
日本古来の精神を失わずに、西洋の優れた技術を取り入れ、
両者を調和・発展させていくというもの。
この言葉を体現し、油絵で日本の風物を描いたのが川村清雄という画家です。
明治維新間もない時期に渡欧し油絵を本格的に学んだ最初期の画家であり、
勝海舟が我が子のように愛した人物。
海外の油絵を学びながら、それを日本の伝統と結びつけた作風は
独自性が強すぎたのか、やがて画壇から存在を忘れられてしまいました。
そんな彼の回顧展がいま、江戸東京博物館で開かれています。
Kenkoku(1929)
Kawamura Kiyo
こちらはオルセー美術館所蔵で初公開となる「建国」という作品。
1927年、川村清雄の回顧展にたまたま足を運んだ
フランス学士院会員のシルヴァン・レヴィ教授が
作品にいたく惚れ込み、パリの美術館に彼の作品を所蔵したいと申し出ます。
そこで清雄は、どうせなら外国にない純日本的なものをと考え、
描かれたのがこの作品。
このとき清雄は78歳、老齢ながらみずみずしい色使いと筆さばきで、
会心の出来であったことがうかがえます。
鏡、勾玉、剣という三種の神器や日本を象徴する桜、そして鶏。
天岩戸に隠れた天照大神を連れ戻すために、天神たちが鶏を集めて鳴かせたという
「常世の長鳴鳥」という神話にちなんでおり、
さらにフランスのシンボルである
「ガリアの雄鶏」も重ね合わせているという説もあります。
フランス留学経験のある清雄ならではの、心憎い演出ですね。
ちなみにこの作品、油彩であるにもかかわらず絹地に描かれています。
こうした日本的な支持体にこだわったのも川村清雄の特徴で、
時には板を用いて木目をいかした作品をつくったり、
鍋蓋の裏(ラファエロみたい)や漆の盆、
さらには黒繻子の帯にまで油絵の具をのせています。
常識にとらわれない表現者だったんでしょうね。
展覧会では「油絵師」という言葉が使われていましたが、なるほどです。
江戸東京博物館の「維新の洋画家 — 川村清雄」は12月2日まで。
その後、静岡県立美術館に巡回します(2013年2月9日〜3月27日)。
歴史資料と作品群をもとに、川村清雄の画業を
勝海舟などゆかりの人物とのエピソードを織り交ぜながら紹介する好企画ですよ。
今日も明日もがんばろう。
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