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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

デルヴォー「トンネル」(デルヴォー展より)

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夢のなかにも既視感というものがあるらしく、
あぁ、ここは前にも行ったことがあるなぁ
あぁ、前にも同じ行動をしたなぁなどと
現実とはまた違う世界で奇妙な感覚にとらわれることがたびたびあります。
目が覚めたら、その記憶には靄がかかってしまい
うまく思い出すことができない。
でもその感覚だけがくっきりと残っている。
夢って不思議だなぁと、そのたびに思うわけです。


デルヴォー「トンネル」
 Tunnel(1978)
 Paul Delvaux




こちらはポール・デルヴォーの「トンネル」という作品です。
ベルギーのシュルレアリスムを代表する画家が描いたのは、
夢のなかを思わせる幻想世界。
女性たちがたたずむのは駅のホームでしょうか。
青灰色のタイルの向こうには唐突に線路がはじまり、
汽車が今まさに出発しようとしています。
けれど女性たちは無関心な様子で、
思い思いの方向を向いて誰とも目を合わせようとしないのです。
鏡に閉じ込められた少女もいれば、彫像のようにうつむく女性もいます。
なかには夜ごと、この舞台をさまようものもいるのかもしれません。
彼女たちは同じ空間にいながらにして、言葉を交わすこともなくすれ違い、
孤独をかこっているのでしょう。


女性たちの多くは白いドレスを着ているか、
はたまた透き通った裸身をぼうっと浮かび上がらせています。
月の光が布地や肌を冷たく照らし、そのぶんだけ影が存在感を増していきます。
夜に咲く花が白いのは、月の光でもっとも美しく輝く色だから。
なんとなく、そんな話を思い出しました。


この「トンネル」という作品は、
府中市美術館の「ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅」
という展覧会で展示されています。
写実主義、印象主義を思わせる初期の作品から
シュルレアリスム、そして晩年に至るまでの
デルヴォーの画業を追いかける回顧展。
印象派風の作品も素敵ですし、
骸骨や汽車など意外なモチーフに焦点を当てた展示も見どころです。
まとめて作品を見る機会があまりない画家ですから、
興味のある方はぜひ足を運んでおきたいところ。
「夢に、デルヴォー」というお馬鹿なキャッチコピーも話題ですが、
本当に夢に出そうなくらい、インパクトの強い展覧会ですから。

デルヴォー「森の小径」
 デルヴォー「森の小径」。これも意外な一枚でした。



府中市美術館の展示は11月11日まで、
その後山口の下関市立美術館(11月17日〜2013年1月14日)、
埼玉県立近代美術館(2013年1月22日〜3月24日)、
愛知の岡崎市美術博物館(2013年4月6日〜5月26日)、
秋田市立千秋美術館(2013年7月20日〜9月1日)と巡回します。


最後にもうひとつだけ、デルヴォーのことを。
彼は32歳のときに運命の女性タムと出会いますが、
両親に結婚を反対され、関係を断ってしまいます。
そして18年後、50歳のときに偶然タムと再会し、
生涯の伴侶としてともに生きることになるのです。
自分の道を貫いたからこそ、そんな奇跡が起こったのでしょうか。
そんな彼のことをうらやましく思いながら、
ぼくも自分のやるべきことをやらなければと気合いを入れる次第です。

デルヴォー「カリュプソー」
 デルヴォー最後の油彩「カリュプソー」。この後いくつかの水彩を描き、
 タムが亡くなってからは二度と筆を握ることはなかったそうです。





今日も明日もがんばろう。
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ポール・デルヴォーの絵の中の物語ポール・デルヴォーの絵の中の物語
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