デルヴォー「夜の使者」(デルヴォー展より)
これもまた、いかにもデルヴォーな作品。
足を踏み入れたのは、互いに干渉することのない夢の世界です。
地面に置かれたランプを無表情の女性たちが囲み、
その向こうで音もなく汽車が走って行きます。
遠景にはたくさんの建物が見えるけれど、
生活感はまったくなく、どこか寒々しい気さえしてきます。
Messenger at Night(1980)
Paul Delvaux
府中市美術館の「ポール・デルヴォー展」で展示されていた作品で、
タイトルは「夜の使者」。
夜を告げる使者なのか、夜にあらわれた使者なのか、
そもそも使者は誰なのか。
正面に立つ帽子をかぶった女性か、
それともこの絵を覗き込む鑑賞者自身なのか……。
見れば見るほど深みにはまる、夢幻の世界です。
ちなみに左側に男性の姿も見えますが、
これはジュール・ヴェルヌの小説に登場する男性なのだとか。
それにしても……。
じっと見ているとなんだか怖くなってきます。
無関心の怖さといいますか。
たしかにそれぞれが存在しているはずなのに、
意識することもなくすれ違い続けるばかり。
他者の認識によって自己というものが存在するならば、
デルヴォーが描いたこの世界は
誰もいないに等しいわけです。
そしてそれは
夢の世界に限ったことではないんでしょうね。
たとえば電車に乗ってみれば、
ほとんどの人がスマートフォンの画面をのぞきこみ、
あるいはイヤフォンで外の音をシャットアウトしています。
デルヴォーが描いた世界と、あんまり変わらないような気がして。
今日も明日もがんばろう。
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