下村観山「木の間の秋」(美術にぶるっ! より)
秋らしい一枚を。
二曲一双の金屏風に秋日の林を描いた、
下村観山「木の間の秋」です。
Autumn among Trees(1907)
Shimomura Kanzan
右隻と左隻で奥行きの表現が違うのにお気づきでしょうか。
右隻はどこまでも木立が続き、林の奥深くを表しているようです。
一方、左隻はすぐ向こうに金地の光が見えますね。
図録の解説では左隻は林の入り口を描いたものとありましたが、
どちらかというと出口なんじゃないかなぁ。
屏風絵は右から左に向かって時間が経過していきますからね。
鑑賞者は突然林の奥に迷いこみ、
遠く光にいざなわれて草木をかきわけ進んでいくと
まぶしいばかりの陽光が差し込んでくる、と。
あくまでも素人の推察ですが…。
こうした遠近感、空間表現の妙はヨーロッパ留学のたまものでしょうか。
写実的に描かれた草木と琳派風の草木が同居しているのもおもしろいですね。
全体で見ても部分部分で見ても、いろいろな気づきのある作品です。
本作は茨城県の五浦にあった雑木林を描いたもので、
その近くには日本美術院があったそうです。
下村観山の「木の間の秋」は、
東京国立近代美術館のコレクション展
「美術にぶるっ!」で展示されています。
美術館の60周年を記念し、
13点の重要文化財を筆頭に
12,000点を超える所蔵作品のなかから
選りすぐりの名品を集めた展覧会。
展示室もこれにあわせてリニューアルしており、
質・量ともに突き抜けたすごい企画です。
まともに見たら3時間くらいかかりますので、
気力体力充実した状態で行きましょう(笑)
また、大きな展示替えはないのですが
11月25日までに限り、美術館設立当時の作品として
現在は国立博物館が所蔵している3点が里帰りしています。
浅井忠「春畝」、黒田清輝「舞妓」、青木繁「日本武尊」と、
いずれも素晴らしい作品ですよ。
それでは最後に、秋らしい詩を。
――在りし日の歌――
なにゆゑに こゝろかくは羞ぢらふ
秋 風白き日の山かげなりき
椎の枯葉の落窪に
幹々は いやにおとなび彳(た)ちゐたり
枝々の 拱(く)みあはすあたりかなしげの
空は死児等の亡霊にみち まばたきぬ
をりしもかなた野のうへは
あすとらかんのあはひ縫ふ 古代の象の夢なりき
椎の枯葉の落窪に
幹々は いやにおとなび彳ちゐたり
その日 その幹の隙(ひま) 睦みし瞳
姉らしき色 きみはありにし
その日 その幹の隙 睦みし瞳
姉らしき色 きみはありにし
あゝ! 過ぎし日の 仄(ほの)燃えあざやぐをりをりは
わが心 なにゆゑに なにゆゑにかくは羞ぢらふ……
(中原中也「含羞 (はじらひ)」)
今日も明日もがんばろう。
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