柴田是真「烏鷺蒔絵菓子器」(ZESHINより)
幕末から明治にかけて活躍した蒔絵師、柴田是真。
下絵から蒔絵までの全工程をみずから手がけることにより、
従来の蒔絵師の枠にとらわれない、自由で洒脱な作品を数多く残しています。
そんな世界的にも評価の高い是真の作品を紹介する展覧会が、
根津美術館で開催されています。
その名も「ZESHIN」。タイトルからしてかっこいい!
Tiered Cake Box with Crow and Egret Design
Shibata Zeshin
こちらは柴田是真「烏鷺蒔絵菓子器」。
直方体を2つ重ねあわせたような変わった形状ですが、
これは重色紙形といって、色紙を二枚重ねた形をかたどっているのだとか。
それぞれ金地のうえに黒の烏、銀の鷺。
この対比がまた面白く、ガラスケースの周囲を
ついグルグル回ってしまいました(笑)
展覧会ではこうした箱ものをはじめ、
角度によって色合いを変える螺鈿の桜が鮮やかな「扇面蒔絵書棚」や、
小さな円形に繊細な意匠がこらされた香合、
食事の際の食べ残しや骨を持ち帰るための頓骨という小ぶりの容器も。
青銅や陶器の素材感を蒔絵で再現した「だまし漆器」もおもしろかったな。
そして夕顔や葛などのモチーフを板戸に漆で表現した作品や
江戸の粋を結晶させた印籠などなど
時間がたつのを忘れて、見とれてしまいました。
特に蒔絵の印籠×根付は、粋で奇麗でかっこよくて。
是真はもともと印籠蒔絵師だったそうで、どうりで素敵なわけだ。
一個くらい持って帰りたいなーなんて恐ろしいことを考えてしまった次第。
さらに柴田是真は、紙に漆で絵を描く「漆絵」も手がけており、
工芸品と絵画の枠組みを超えた作品群も見どころです。
実際に漆で絵を描くのがどれほど難しいか……以下、図録より引用。
漆絵は、絵の具と漆という材料の違いに起因して
その筆さらには筆の持ち方、運筆からして異なるため、
通常の日本画家では描くことができない。
一方、通常の蒔絵師には置目のない絵を描くことができない。
つまり是真でなければできない技法であったため、
その一門以外に広まることはなかった。
「置目」とは、蒔絵の工程のひとつで
紙に描いた下絵を漆器の面に写すこと。
基本的に、蒔絵は工程別に専門の職人がいて分業制をとっているんですが、
是真は先にも述べたように下絵から蒔絵まで全行程を一人で行えたため、
その漆技術を紙に応用することができたというわけですね。
実物を目にすると、確かに油絵などとは少し違う独特の雰囲気。
軽妙なものから風雅なものまで、方向性はさまざまなんですが
いずれも線の一本一本に量感があり、艶があり、風格がある。
油絵の厚塗りのマチエールを、細線で表現できるといったところでしょうか。
それが面になれば当然厚みがでるし、
重たいというより、どっしりとした構えの作品に仕上がっています。
この漆絵に挑戦したのが還暦を過ぎてからだというから……驚きです。
これも漆絵。実物じゃないといまいち雰囲気が伝わらないですね。
ちなみに是真は20代のときに円山四条派で学んでおり、
絵師としても活躍しています。
展覧会では屏風絵や掛軸も展示されているんですが、これがまた見事。
いかにも円山四条派な鯉の表現や、
なだれ落ちる瀑布の威容に圧倒されました。
掛け軸にかわいらしいお雛様を描き、
表装にたくさんの雛道具を配した「雛図」も
だまし絵のようで思わず笑みがこぼれてしまいました。
根津美術館の「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」は
12月16日(日)まで。途中、一部展示替えがあるようです。
漆工品約110点、漆絵約20点、絵画作品は約10点。
意外に点数が多く、どの作品もじっくり鑑賞したい精緻な出来映えなので、
すいているうちに行ったほうがいいかと思います。
国内の作品をまとめて展示するのは実に30年ぶりとのことなので、
この機会をお見逃しなく!
最後に余談ですが、今回はめずらしく両親を連れての鑑賞でした。
正月以来まったく顔を合わせていなかったし
ぼくの引っ越し先もまだ見ていないということで
わざわざ偵察にやってきまして、
せっかくなので昼食がてらどこか案内しよう、ということで。
もう少し時期が遅ければ、
根津美術館の庭園も赤く染まってたんでしょうけどね。
それでも初体験ということで、とても喜んでいただけました。
「こういうところに一緒に行ってくれる子はいないのかい」と
何回も言われてしまいましたが。。。
余計なお世話だー
今日も明日もがんばろう。
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