エル・グレコ「白貂の毛皮をまとう貴婦人」(エル・グレコ展より)
黒い瞳と黒い眉、額のふくらみ、
鼻から唇までの狭さ、
そしてそれらを包む細面の顔かたちには
あきらかに東方からの血脈があらわれている。
ムーア人という説があるからには
アラブの血脈も当然混入しているのだろうが、
アラブの中にあっても、
この婦人の表貌はさらに東方へ向かっている気がしてならない。
(伊集院静「美の旅人 スペイン編 1」より)
A Lady in a Fur Wrap(1577-90)
El Greco
エル・グレコ作「白貂の毛皮をまとう貴婦人」。
彼の作品にしてはあまりに王道的な美しさで、
ぼくはむしろ違和感を覚えてしまいました。
きりっとした眉と強くこちらを見据える眼差しが印象的ですが、
女性がこのように描かれるのはスペイン絵画史において初めてのことなのだとか。
そして、エル・グレコが描いた数少ない女性肖像画のひとつなのだそうです。
彼の作品は一歩間違えればグロテスクに転びそうな
絶妙なバランスのうえに成り立っていると思うのですが、
そうした作品群のなかにあって
「白貂の毛皮をまとう貴婦人」はただただ美しい。
モデルは画家の娘だという説もあり、
はたまた内縁の妻ヘロニマであるという説も。
愛する存在だからこそ、目に見えるそのままの姿で描いたのでしょうか。
国立国際美術館の「エル・グレコ展」では
やはりこの作品が異彩を放っており、
足を止めて見入らずにはいられませんでした。
エル・グレコの作品という前提で考えると少し物足りなくもあるのですが……
そういった先入観を捨ててしまえば、文句なしに素晴らしい作品です。
この作品をはじめて知ったのが、冒頭で引用した
伊集院静の「美の旅人」においてでした。
ゴヤ、ベラスケス、エル・グレコ、ミロ、ダリなど
スペインが誇る珠玉の作品を巡る旅。
このなかで、伊集院静はエル・グレコについて
衝撃的な仮説をたてています。
興味のある方はぜひご一読あれ。
今日も明日もがんばろう。
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