ターナー「アップナー城、ケント」(英国水彩画展より)
夜の訪れのまえにわずかばかり許された時間
落日は神々しい光で
空を海を、金色に染めていきます。
J.M.W.ターナー「アップナー城、ケント」。
ロマン主義の巨匠が描いた、奇跡のような水彩風景画です。
Upnor Castle, Kent(1831-32)
J.M.W.Turner
今日という一日に感謝して、
沈みゆく太陽の光に目を細める人。
夜がやってくるまえに仕事を片付けようと手を早める人。
長く伸びた影に家路を思い、頭を垂れる人。
それぞれの人生がいまここに重なって、
一様に光に満たされていくようです。
青は静かに去っていき、
大型船の影もやがて闇に溶け込んでいくのでしょう。
ターナーと親しく交流した美術評論家のジョン・ラスキンは、
その著書「近代画家論」のなかで
ターナーについてこう書き記しています。
彼は滝に虹色の輝きを、
火災にきらめく光を、
海に深い青を、
空に澄みきった金色を求めた。
鮮やかな色彩を、そして光を求めたターナー。
白い紙に水で溶いた顔料で描く水彩画はその透明感ゆえ、
彼のために存在するといっても過言ではない気さえします。
そしてグワッシュという不透明水彩絵具によって、
この作品ではかえって光の美しさが際立っているように感じるのです。
渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムでは
「巨匠たちの英国水彩画展」という展覧会が開かれており、
157点の展示作品のうちターナーの作品が30点にものぼります。
コンスタブル、ミレイ、ロセッティ、ハント、ブレイクなどなど
そうそうたる画家たちの水彩画が集まったこの展覧会、
ターナー抜きでも十二分に楽しめるのですが
やはりターナーは別格で、その表現、色彩は群を抜いていたように思います。
来年秋には東京都美術館でターナー展が予定されていますし、
その前哨戦の意味も込めて、アート好きならぜひ足を運ぶべき展覧会ですよ。
今日も明日もがんばろう。
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