カバネル「ヴィーナスの誕生」
昨日に続いて、涼しげな一枚。
アレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」です。
Naissance de Venus(1863)
Alexander Cabanel
アングルの「泉」を横に寝かせたような、美しいS字の裸身。
波の上に横たわるヴィーナスが右手で顔を隠しているのは、
日差しをよけるためか、それとも恥じらいからか。
その隙間からは、目を細めた官能的な微笑みが見てとれます。
穏やかな海と青い空、そして全身で歓喜を表現するキューピッドたち。
ボッティチェリをはじめとする
古今の画家が取り組んできた「ヴィーナスの誕生」ですが、
カバネルの作品も「最も理想的な女性像」と激賞され、歴史に名を残しました。
しかし美術史において、この作品は否定的な意味で語られることが多いようです。
カバネルの「ヴィーナスの誕生」がサロンに出展されたのは1863年。
そしてこの年、ある作品が西洋美術の伝統に風穴をあけます。
サロンに落選し、「落選者展」で激しい非難にさらされた作品のタイトルは「水浴」。
後に「草上の昼食」と名付けられたこの作品を描いたのが
印象派の旗手、エドゥアール・マネでした。
Le Déjeuner sur l'herbe(1862-63)
Edouard Manet
今でこそ印象派の記念碑的作品と認められる「草上の昼食」ですが、
当時の評価は惨憺たるものでした。
そのいっぽうで、アカデミズムの伝統に属した
「ヴィーナスの誕生」はサロンにおいて注目を集め、
ナポレオン3世が購入したほど。
しかし2人の画家の明暗は見事にひっくり返り、
ここから印象派が隆盛を極めていくわけです。
ところで、「ヴィーナスの誕生」というけれど、
そもそもヴィーナスはどこから(何から)誕生したかご存知でしょうか?
貝殻……ではなくて、天の神ウラノスの男根から生まれたのだそうです。
ウラノスは大地の女神ガイアとの間に12人の子どもをもうけますが、
子どもたちのことをちっともかわいがらず、
業を煮やしたガイアが子どもたちに「お父さんに罰を与えなさい」と言ったところ、
時の神クロノスが名乗り出て、クロノスの男根を切り落としてしまったのだとか。
カバネルの「ヴィーナスの誕生」で描かれるのは、
そんな生々しいエピソードとは無縁の美しい世界観。
一方のマネは、都会の闇に目を向け、真実を描こうとした画家でした。
こうした2人の視点の違いが、後の明暗につながっていったのかもしれません。
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